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「昆奈門。」
「なんですか」
「A殿とは仲良くやっているのか。」
「…まあそれなりに」
「むう、それなりか」
「むうとかやめてください。忍務中ですよ」
父親との話で思い出されたのは、己の許嫁。
押しかけるように里へやってきたのに、今ではまるで昔からそこへいたように馴染んでいる。
「お前が竹筒に雑炊を入れてのんでいたと聞いたぞ。」
「にやにやしないでください」
「そうかそうか、A殿が持たせてくれたのか。」
「…」
前に、忙しくても最低限の食事はできるようにと雑炊の入った竹筒を持たされて以来、ずっと雑炊を持って忍務へ行っている。
彼女のご飯はおいしい。
城の姫だったとは思えないほどの生活力がある。
彼女が家に来てから、あの屋敷の雰囲気はがらっと変わった。
光が灯らず、ただただ大きいだけで、圧迫感のあるあの屋敷に光が灯り、彼女が夕餉の準備をしているのか、味噌と醤油のいい匂いが漂ってくる。
ただいま、と戸を引けば必ず、おかえりなさい、と声が聞こえてくる。
そして、台所からぱたぱたと駆けてきた彼女は温かくにっこりと笑うのだ。
脳裏にその笑顔が浮かんでくる。
今は忍務中だと頭を振って雑念を追い払う。
「おっ、今A殿のことを思い出したな?」
「うるさいですよ」
「…なあ昆奈門。…A殿のことを大切にしなさい」
「…分かってますよ」
自分を慕っている、と強引に許嫁になった彼女。
受け入れてみれば、彼女の側は思った以上に温かかった。
そんなことも、自分の父親には丸わかりなのだろう。
忍びとしてまだまだだ、と思う。
「それにしても、あれはどうしたんだ?」
「処分しました」
「よくもうちの嫁を傷つけようとしおって」
「いやまだ嫁じゃないし」
あれ、つまり脱走しようとした忍は捕まえた後、速やかに処分された。
まだ未熟な者達にあの忍を違う牢に移すことを任せたため、このようなことになったと報告を受けた。
あの忍を逃してしまった者たちには、1ヶ月、いつもより更に厳しい訓練を受けさせることになった。
彼女に手裏剣が飛んでいくのを見かけたときは肝が冷えた。
たまたま自分があそこを通っていなかったら、どうなっていただろう。
そう考えると怖くなって、彼女を責め立てるようなことを言ってしまった。
怖い、という私らしくもない感情に戸惑った。
彼女への思いはもう少しだけ気づかないふりをしたい。
そうでもしないと、彼女に溺れてしまいそうだ。
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ゆき - ハナイツキさん» 今までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!最初の方から何度もコメントを頂いて、本当に励みになりました!感謝の言葉しかございません。さらなるいちゃらぶを目指しますので、続編もよろしくお願いいたします! (2023年5月2日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ハナイツキ - 完結お疲れ様です!本ッッッッ当に大好きな小説です!もう雑渡さんにキュンキュンしまくりで、最後の結婚のくだりでは涙ぐみながら読むくらい、、続編も読ませていただきます!雑渡さんとのいちゃラブ生活のご提供、本当にありがとうございました!!! (2023年5月1日 23時) (レス) @page50 id: a0586360be (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - ミリリン(・ω・)さん» 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。続編も書こうと思っておりますので、気長にお待ちいただければと思います。続編もよろしくお願いいたします! (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき - astrumさん» 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!続編については、書いてみようかなと思っております。続編の方も、よろしくお願いいたします。雑渡さんとのいちゃらぶ生活…頑張ります笑 (2023年3月28日 23時) (レス) id: 11850f2a40 (このIDを非表示/違反報告)
ミリリン(・ω・) - え?好きです。 ヤバイですね むっちゃ面白かったです! 続編出たら絶対読みます。 気長に待っています! お疲れ様でした! 素敵な作品をありがとうございました! (2023年3月28日 21時) (レス) @page50 id: 5a9db1aae6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2022年1月30日 0時