閑話。 ページ50
『何聴いてんの?』
いつものようにイヤホンを耳に着け、楽しそうに何かを聴いている新八。
「お通ちゃんの新曲です!早速買っちゃいまして…迦葉さんも聴いてみますか?最高ですよ!」
興奮気味に話す。
お通。新八の好きなアイドルで、何度か万事屋に依頼に来ていた特殊な語尾の女。
家事をこなしながら独特な歌詞を口ずさむ新八の姿を思い出す。
『…ちょっと気になる。』
「…!」
イヤホンを借りて新八の隣に座る。
いきますよ、と端末を操作すると、前奏が聴こえてきた。
…歌詞はよくわからないが、この旋律にはなぜか聴き覚えがある。
どうにか思考をめぐらせる。あの時聴いたのは三味線、だったような…ああ、万斉だ。
あいつもファンだったのか。
『…ん?新曲って言ったか?』
「はい!つい先日公開されまして!」
そんなはずはない。万斉が弾いていたのはもっと前だった。
ただのファンではないらしい。
おれが興味を示したことがよっぽど嬉しかったのか、おれから片方イヤホンを外し自らに着け、お通の曲を1つずつ流しながら語り始めた。
「あと、本当はお通ちゃん本人が作詞作曲になってる曲もあったんですけど、色々あって発売中止になっちゃって…」
『普段はお通じゃねェの?』
「つんぽさんて方が楽曲提供されてるんです!ただ、その時は突き指をしたとかでしばらくお休みに…」
『へェ…』
まァ歌詞はともかく、旋律自体は嫌いじゃない。
新八も楽しそうにしていることだし、しばらくはこのままでいることにした。
…久しぶりに、万斉の三味線が聴きたくなった。
その夜、前に万斉と会った橋に来た。…流石にいない、か。
何やってんだおれは、と来た道を戻ろうとした。
「迦葉…?」
『…え、あ、万斉!…毎日ここで弾いてんの?』
「まさか。今日は少しぬしに会いたくなったものでな。まさかいるとは思わなかったでござる。」
なんという偶然。
演奏を聴きながらお通の曲について万斉に問う。
…つんぽ、というのは万斉のプロデューサーとしての名前らしい。突き指ってまさかヘリの時の…
「そうだ、今日はぬしにも三味線を持ってきたでござるよ。」
『おれ音楽の心得とかねェぞ。』
「構わぬ。」
万斉の好意を無下にもできず、三味線を受け取って基礎を教わった。
美しい演奏が響きわたる。
「センスがある…な…」
月の光に照らされ、白い髪が輝きを放つ。
真剣な様子で三味線を弾く迦葉。
「(…晋助、安心しろ。今宵も月は綺麗だ。)」
12人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:逆叉 | 作成日時:2024年3月28日 22時