忘失。 ページ48
「お前さん、誰ともコミュニケーション取らねェのは勝手だが、団員から相当ヘイト買ってるぞ。少しは愛想ってもんをだな…」
ジジィに勧誘されてから、変な夜兎がやたらと声をかけてくるようになった。コミュニケーションだの愛想だの、おれは戦えさえすればどうでもいいのに。
『…お前、だれ?』
「…これだから餓鬼は嫌いなんだ。お前さんと組むよう団長から仰せつかった阿伏兎だ。自己紹介はしたろ?そっちは名乗らなかったが。」
『知らね。』
「オイオイ。」
夜兎。宇宙最強の戦闘民族。
強い奴らもいる、と言っていたのに、戦ってみればそれ程でもない奴ばかり。稽古にもならない。
ジジィもジジィでおれを殺す気はないみたいだし、はやく強い奴とでも戦って終わりたい。
この船はいつ次の戦場に着くんだろうか。
なにか喋っているこの夜兎を置いて、自室へ戻った。
「ちっ、地球人がなんでこんなところに…鳳仙様は何を考えてるんだ…」
食堂で糖分を補給する。どうもこれがないと頭が回らない。
「地球産てのは言い返す力もねェのか?」
後ろから声がかかる。いつもの夜兎。
『…誰だっけ。』
「阿伏兎だよ阿、伏、兎!…ったく、陰口言われて呑気に甘味漁るたァ白い厄災ってのも大したことねェなァ。」
『陰口…?ああ、悪ィ。弱ェのに興味ねェんだ。相手してやったほうがいい?』
本当に気付かなかった。おれに話しかけてくれていたらしい。
「てめェ、調子に乗ってんじゃねェぞ!怖ェからって強がってんじゃ…」
『はァ…?いやいや、お前、道端の小石とか気にするタイプ?夜兎って神経質なんだなァ…』
なぜか激昂して向かってくるそいつらを刀で一蹴する。ようやく静かになって、再び甘味を口に入れた。
戦場に立ち、思うがままに刀を振るう。
…つまらない。銀達と共に戦っていた時は、相手が弱くとも…いや、あいつらのことを考えるのはやめよう。
不意に近くで戦っていたあいつの後ろに敵を見た。
どうやら気付いていないらしい。
そのまま死んでくれたら少しは静かになるだろうか。
それでいい、はずなのに。
言い忘れていたことを伝えるだけ、と言い聞かせて、それを斬り伏せる。
「…?お前さん、あっちで戦ってたんじゃ…」
『…迦葉。』
「ええ…?」
『だから、迦葉。おれの名前。お前、じゃない。…覚えとけ、阿伏兎。』
目を見開いている。が、すぐに笑顔になった。
「…そうかい。いい名前だねェ、そりゃ。」
『…知ってる。』
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作者名:逆叉 | 作成日時:2024年3月28日 22時