お控えなすって! ページ25
戦闘音が聞こえる。
傷だらけの銀と、1つの墓場の前で血を流して眠るお登勢。
「なんだ、もう1匹の犬っころが来たと思ったら既にふらふらじゃねェか。」
次郎長の声。…のはずだが、歪む視界の中それがいつかの烏の姿と重なる。
『はッ…あ…』
「…なんだ?様子が…」
殺さなければ。銀を、お登勢を、護らなければ。
木刀を握り、そいつに斬り掛かる。刀で防がれたが、懐から銃剣を取り出して刺した。
はやく殺さなければ。銀が……松陽が、連れていかれてしまう。
『その手ェ離せ…ッ!松陽…!』
「…お前…いま…何を見て…」
「どうやら幻覚を見ているようだ。あの女の仕業か?」
己の腕を斬り、血で烏の視界を奪う。
向かってくる錫杖を腕に突き刺し受け止め、木刀で殴り飛ばした。
「…無痛と聞いちゃいたがここまでめちゃくちゃだとは。お登勢もとんでもない犬を飼い慣らしてたもんだ。」
『銀、おれ、おれが護る、護るから、』
腕に刺さった錫杖を引き抜く。そのまま烏の腕に突き刺した。
「…少し、眠っていろ。」
頭を掴まれ、投げ飛ばされる。頭が大きく揺れた。
立ち上がり、もう一度木刀を握りしめる。
「迦葉…もう動くな…!」
銀の声。歪んだ視界に銀色が映る。
思わず手を伸ばした。
『…ぎん、おれの…だいじな…』
そこで意識は途絶えた。
「ありゃりゃ、こんなところにいたとはー!迦葉の兄貴ー、兄貴の舞台はあっちなんですゥ!あそこで綺麗な花、咲かせてください!」
気を失った迦葉を、黒ずくめの集団…華佗の兵が抱えてどこかへ消えた。
おれを呼ぶ声が聞こえる。
「迦葉!オイ迦葉!はやく!銀時を止めてくれ!」
刀を握らされ、縛られた松陽のそばに立つ銀。
「迦葉。約束しましたね。化け物の剣にはならないと。その刀を抜いてはいけません。君は銀時達のそばに。」
「…迦葉。お前は、何もするな。」
おれに微笑む松陽と銀。
不倶戴天を抜けば助けられるのに。2人の言葉がおれを人に縛る。
動けば奴らを殺すより先に晋助と小太郎が殺される。きっと銀も。
おれにはなにもできない。…なにも、できなかった。
自らが人として生きる為に、松陽を化け物に戻してしまった。
おれは、人になるべきではなかった。
銀の、晋助の、小太郎の。大事な彼らの涙が脳裏に焼き付いて離れない。
何も言わないが、きっとおれを憎んでいる。
『……めん、…ごめん、なさい。』
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作者名:逆叉 | 作成日時:2024年3月28日 22時