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 もう一つ。そう続けた降谷零は、ベッドに座る俺を見下ろしてこう尋ねた。

「前に言った、あの言葉に嘘偽りはないか」
「あの言葉?」
「俺の手足になるだとか、尻尾になるだとか言っていただろう」
「あぁ……」

 この間の酒盛り後の話か。そういえばそんなことを言っていた気もする。
 酒の力か、随分と大きい口を叩いたもんだ。
 だが、その言葉を嘘にするつもりも、偽ったつもりもない。

「……この身この命は、我らが祖国の為に」

 顔を引き締めて敬礼を一つ。
 俺が、死んで尚また組織に潜り込み続けているのが何よりの証拠である。例え再び命を落とすことになろうとも──まあ無駄死にするつもりは毛頭ないが──逃げるつもりは無い。
 一つの命が何千人何万人を救うのならそれに越したことはない。その命がより長く組織にダメージを与えることができるなら、それを生かすべきだ。
 そして、より生かすべきは俺の命よりも降谷零の命なのである。
 ──ならば俺は、その為に手足となり肉盾となろう……なんてな。
 大げさに言ったが、ようは色々な理由をつけて、結局のところ俺個人が降谷零という男に死んでほしくないだけだ。
 表情を崩し、だらしなく笑う。答えになっていない気がする。結局、何でも聞いてこいなんて言っておいて俺に答えられることなんてこれっぽっちもないのだ。
 納得できないといわれれば、そのままでいてくれた方が都合がいい。

「それじゃあ不満か?」
「……いや。なら、いい」

 いつもの顔で笑った俺に、釣られたように、降谷零の顔が緩んだ。呆気に取られて膝に滑り落ちた手が、そのまま服の皺を深くする。
 いい、とはどういう意味だ?
 謎の多い男を傍に置くほど降谷零のガードは緩くない。だからこそ俺は自分を謎で纏って、降谷零から決して近すぎない遠い位置で彼を見守るつもりでいたのだ。
 降谷零のなかで俺のポジションがどの枠に落ち着いたのかと問いただしたいが、俺が深追いできる事じゃないので何も言えない。
 ──いま、彼の中の俺は、どうなってる?
 見慣れた顔のはずなのに、そこから何かを読み取るのが難しい。結局何の判断もつかないまま、ライからの着信で会話は終了となった。




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作者名:タイガ | 作成日時:2023年8月28日 20時

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