婚約者20 ページ21
＊
「──何でだと思う？」
嗚呼、僕は一体何を言ってるんだろうか。
そう耳元で囁き、彼が声にならない悲鳴を上げる中、僕はまだ、迷っていた。
どうはぐらかそうか迷って、毒サソリが使っていたハニートラップを試しに応用したのがまずかったのか、目を回した渉が僕の方に頭を落とすように埋め、彼の体から力が完全に抜けたのを感じた。
……今のことを除けば、全て計画通り。渉のことは抱きしめるだけで留まろうと思っていたが、彼が余りにかわいらしすぎたせいなので、いかんせん不可抗力だ。
そう、上手くいっているはず、なのに。いや、上手くいっているからこそ──胸が、罪悪感で捻り潰されそうなほど苦しいんだろう。
これから僕が行おうとしていることは、僕の勝手なエゴで、一方的な贖罪で、……ただの、我儘だ。
それでも渉は僕が懇願すれば、きっと少し困ったように笑いながら僕の隣にいてくれるのだろう。気になることがあっても、僕が予めボーダーラインを引けば、無理には立ち入ってこない。彼は、優しいから。
……優しい人間はずっと、喚き散らす草食動物よりも嫌いだった。今でも彼以外は大嫌いだ。一人では生きていけないとばかりに“表向き”の優しさで人に媚を売り、そのくせ陰口を叩いたり都合が悪くなるとすぐに裏切る。表向きが優しい人間こそ裏は腹黒い。そんなことをしてまで群れようとする奴らの行動は、僕には吐き気がするほど理解し得ないものだ。
でも、彼だけは。群れるのは嫌いだと、どうせお前も財産目当てで媚を売りに来ているだけなのだろうという思いを捨てきれない僕の隣で、真っ直ぐな、優しさのにじむ暖かい若草色の瞳で僕を見つめながら、ゆっくりでいいんだと、僕が振り切れるまでいつまででも待っていると柔らかくはにかんでくれた、彼だけは。
その優しさを、温もりを信じていいのだと。信じて、頼っていいのだと教えてくれた彼だけは、僕が認識した唯一の優しい人間だ。
──なのに。
思わずぐっと歯をくいしばり、手のひらを強く握りしめる。
同時に、胸の中の迷いがすっと立ち消えたような感覚がした。
彼と別れた、あの日。自分から突き放したくせに、離れていく背中に伸ばしてしまった自分の中途半端に上がった腕を見つめた、あの日から。彼と再開した、あの瞬間から。
エゴでも贖罪でも我儘でも、何でもいい。決意と共に伸ばしてきた自分の髪に目を落としながら、自分の思いを再確認する。
僕は君を守れるくらい、強くなった。だから──
──君の隣にいても、いいですか？
そう思いながら、そっと彼の後頸部に手刀を押し当てた。
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ゆきか - 初コメ失礼します！すごく好みの作品で楽しく見させていただいています！続き待ってます！ (2019年10月28日 16時) (
レス) id: f42ad21887 (このIDを非表示/違反報告)
夢うさぎ??(プロフ) - ゆうりさん» コメントありがとうございます！ あわわ、面白いだなんて……ありがとうございます！！ まだまだですが、より面白い物がかけるように頑張ります！ (2019年7月1日 3時) (レス) id: 4da07b4f90 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうり - 関連作品ランキングにあったので、読んでみたら凄く面白くて一気読みしてしまいました。受験大変ですよね(-_-;)私も去年大変でした。 頑張ってください！応援してます！ (2019年6月30日 16時) (レス) id: 616da87ebb (このIDを非表示/違反報告)
夢@雲雀さんのムスッがかわいすぎてヤバイ(プロフ) - むにゃさん» コメントありがとうございます！ 頑張ります！！ だいぶテストやばいんですが、人生初ライブなんでなんとかしたい、いやしてみせようと思います！！ (2019年4月3日 17時) (レス) id: 8a8c64050c (このIDを非表示/違反報告)
夢@雲雀さんのムスッがかわいすぎてヤバイ(プロフ) - 露都さん» コメントありがとうございます！ 死ぬ気で頑張ります！！ 更新はしばしおまちを……。 (2019年4月3日 17時) (レス) id: 8a8c64050c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夢うさぎ | 作成日時：2019年3月26日 16時
