検索窓
今日:3 hit、昨日:11 hit、合計:15,794 hit

百六話/崇め奉れ ページ6

正直、ここから太宰が何を話していたのか、あまり覚えていない。
内容はAの考えと大差なかったような気がする。


「偽装の為に遺骸に二発も撃つなんて」


とは、乱歩に六十秒で推理をしろと無理難題を命じられた時の杉本の言葉である。
しかし、解剖が()だ行われていない状態でその事実を知っているのは犯人しかいない。

そして、『昨日の早朝』と、乱歩が話していた犯行時間。その裏付けは、遺体の損壊具合と被害者の顔、そして服装であった。

川を流れていたにも関わらず損壊が少ない遺体から考えられるのは、この遺体が川を流れてから長くても一日ということ。そして、昨日は火曜日、平日である。

ーーにも関わらず、私服で化粧をしていない被害者女性。激務で残業の多い刑事がそのような格好をするのは早朝。
と、一応は考えられるが、実際は真夜中かもしれないし、犯行現場や銃で脅したなどは目に見える手掛かりがない。


「そこまではお手上げだよ。乱歩さんの目は私なんかよりずっと多くの手掛かりを捉えていたのだろう」


そう、太宰が感心したように話していたのは何故か記憶に残っている。


「あ、でも!彼女の台詞まで中ててましたよね」


敦の疑問に太宰は「うん」と此方へ振り向くと、


「あれはね」


「……腕時計ですか?」


「その通り!よく判ったね、Aちゃん!」


「いえ、一度本で見た事があったので」


「Aちゃん、腕時計って?」


交際相手はいないと云われていた被害者の山際。彼女が付けていた腕時計、それは海外銘柄(ブランド)のものだった。かなり高額のものだ。
そしてその腕時計を杉本も同じ機種(モデル)の紳士用を使っていた。

そのことを敦に説明すると、彼は「じゃあ……」と喉を引き攣らせた。


「あの二人は……」


「うん、早朝の呼び出しに化粧もせずに駆けつける。そして同じモデルの腕時計」


「ーーーー」


「二人は、恋人同士だったのだよ……職場にも秘密のね。だから彼は彼女の顔を蹴り砕けなかった。そうしないとマフィアの仕業(しわざ)に見せかけられないと判っていても」


沈黙する敦と眉を寄せて黒紫の瞳を伏せるA。太宰はその二人を一瞥すると、


「さて、これで判ったろう?」


「何がです?」


太宰は形のいい唇を引き伸ばし、整った二重瞼の目を細めた。


「乱歩さんのあの態度を、探偵社の誰も咎めない理由がさ」

百七話/お風呂→←百五話/異能力非所持者



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (44 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
113人がお気に入り
設定タグ:文スト , BSD , 原作沿い   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:女中 | 作成日時:2022年6月11日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。