検索窓
今日:5 hit、昨日:3 hit、合計:15,817 hit

百三十三話/欺瞞の止めどき ページ43

無言で此方を見上げる鏡花の視線が気になって仕方なかった。
決して、好意的とは呼べないそれにAは固唾を飲み込む。
探るような、負の感情が絡められた視線は苦手な点は敦獣化事件の際と何ら変わっていない。
あの時も、国木田と太宰に今の鏡花と似たような目を向けられたっけ、と頭の片隅で思った。


「え……っと」


意図せず、頬が引き攣った。


「貴方はーー」


先刻Aが遮った言葉を、再度鏡花が口にする。
そんな彼女にAは目を丸くした。彼女のその疑問に対しての答えをAは提示した筈だ。
名前と、貴方と仲良くなりたいの意思を込めた言葉を送った。
それとも他に何か伝えようとしているのだろうか。


「何?鏡花さ、ちゃん」


腰を低くして目線を鏡花と合わせる。Aがその動作を行動に移す寸前、鏡花は口を開いた。


「私は貴方と同じ探偵社員、泉鏡花」


「ーーーー」


「貴方はあの人の元同居人。あの人からそう聞いた」


一発目から地雷を踏み抜かれた。よりによって今か。今しなければならない話なのか、それは。
驚きと苛立ちを高く通り越して笑顔になる。
そんな不気味なAを鏡花は無表情で見据え乍ら、


「貧民街からあの人と同じ孤児院に移ったと聞いた。ーーこれは本当?」


それは、Aの全く予想していなかった問い掛けだった。
紡がれた疑問は彼女が知らないはずの情報だ。
けど、実際鏡花はこうしてAの経歴を知っていた。となると、敦が鏡花に教えたのだろう。


「うん、私は」


そこまで口にしたところで、気付いた。
敦は、Aが貧民街の出だということを知らない。
話したことも、ない。唯一、Aから話をした太宰はAと行動を共にしていた為、鏡花に話す時間は無かった筈。

早急に情報の出処を確認する必要がある。
回答によって、Aの今後が大きく左右される類の情報なのだから。


「……鏡花ちゃん。それ、どこでーー」


問い詰めたようとしたところで、騒がしい足音が近付いてくる。

沈黙。

自然、この場にいる探偵社員は一人残らずその判断を選択。
急用なのか、足音は探偵社に真っ直ぐ、それも走って向かってきている。
音の主はその勢いに任せ扉を勢いよく開けると、叫んだ。


「た、大変です!」


「谷崎さん?何が……」


駆け込んできた谷崎の蒼白具合。Aが説明を求めようと口を開いた直後、外からの轟音が鼓膜を打った。

百三十四話/若さ故の青→←百三十二話/先輩様の云う通り



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (44 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
111人がお気に入り
設定タグ:文スト , BSD , 原作沿い   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:女中 | 作成日時:2022年6月11日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。