六話/ 理想主義男は怖い人 ページ6
「う、わぁ敦君早い、凄い」
Aは思わず感嘆の声を上げた。
隣には物凄い勢いで茶漬けを口に運ぶ敦。
彼女が称賛しているのは敦のその食べる
申し訳程度に頼んだ一杯の茶漬けを未だ完食していないAに対し、既に十杯分は胃袋に入れている敦。
差は歴然だ。
「Aちゃんは一杯だけで本当に良いのかい?遠慮なら要らない、好きなだけ食べるといい」
そんな二人の様子を見ていた太宰、と云う男がAに二杯目を促す。
「ええと…じゃあ二杯目、お願いします」
「よぅし判った。其所の女給さん茶漬けをもう一杯」
蕩けるような甘い微笑を湛えて注文する太宰に女給が顔を赤く染めて「はい」と応じる。
「ーーーー」
これは…と、Aが太宰の隣を見ると案の定眉間に皺を寄せ、鬼の形相をしている男がいた。
男は自分を落ち着かせるかのように指で机を叩いていたが、太宰の注文をきっかけにその指を止めた。
そして立ち上がり、怒声を張り上げ、
「おい太宰、早く仕事に戻るぞ」
ーーとはならなかった。
意外にも冷静な国木田にAは艶めかしく目を細める。
川辺では怒鳴ってばかりだった為、怖くて短気な人なのかと思っていたが、存外冷静な人間なのだろうか。
「ーーーー」
国木田の人間性について思案し乍らAはふと手元に目をやった。
視線の先には先程女給が太宰に熱い視線を送り乍ら持ってきた茶漬け。
出来たてのそれを口に運ぶとAの口角が自然に上がった。美味しい。
「仕事中に突然『良い川だね』とか云いながら川に飛び込む奴がいるか。おかげで見ろ、予定が大幅に遅れてしまった」
「国木田君は予定表が好きだねぇ」
理想、と表紙に書かれた手帳を片手に睨み付けてくる国木田に太宰は軽口で応じた。
「これは予定表では無い!理想だ!我が人生の道標だ!そしてこれには『仕事の相手が自`殺嗜好』とは書いていない!」
国木田が怒声を張り上げて机に手帳を叩き付ける。
机から大きな音が鳴り、Aの体が反射的に跳ねた。
前言撤回。凄く怖い人だ。
Aは自信の整った顔を強張らせた後、もう一度茶漬けを口に運んだ。
92人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
女中(プロフ) - よくねたしおだおぉぉぉぉ!!!さん» 米有難うございます励みになります!!!初めてコメントとかきて過呼吸なりました(Tほんとに!!有難うございます!!! (2022年2月7日 9時) (レス) id: 44e9453d1b (このIDを非表示/違反報告)
よくねたしおだおぉぉぉぉ!!! - ウワァ、、好き、、もっと評価されるべき!更新待ってます!!! (2022年2月6日 19時) (レス) @page45 id: a2762c3708 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:女中 | 作成日時:2021年12月4日 16時