五話/ 太宰治と云う男 ページ5
「ーーちゃん、Aちゃん」
その声にAの意識は突然、思考世界から現実世界へと引き戻された。
「ん?」
敦は心を決めた顔をして例のそういう関係とやらを説明する為に息を吸う。
「青春だぁ」と男が茶化すが少年の耳には入らない。
ーーだが敦が言葉を発することは無かった。Aに説明するのに怖気付いたからではない。或る男に声を遮られたからだ。
「おォーい」
男の声が誰かを呼ぶ。
「こんな処に居ったか唐変木!」
「唐変木…」
Aはこの場で唯一其の言葉が当て嵌る男を見た。案の定、砂色外套男は「唐変木!」と叫ぶ男に手を振っている。
「おー国木田君、ご苦労様」
「苦労は凡てお前の所為だ!この自`殺
「そうだ君達、良いことを思いついた。彼は私の同僚なのだ、彼に奢ってもらおう。」
砂色外套男は手帳を片手に叫ぶ男を無視してAと敦にそう提案した。
「へ?」
「人の話を聞けよ!!」
Aの顔に冷や汗が浮かんだ。これでは先程考え付いた未来図が実現されそうもない。
「君達、名前は?」
「中島…敦ですけど」
「……な、永井Aです」
「着いてきたまえ敦君、Aちゃん。何が食べたい?」
敦は意見を求めて隣のAに視線をやった。
少女は心ここに在らずと云うような顔をしていたが、敦の視線には気づいてくれたらしく、遠慮がちな視線に首を振って答えた。
恐らく、敦が選べと云うことなのだろう。
「はぁ、あの……」
視線と同じく遠慮がちな声。
「茶漬けが食べたいです」
「餓死寸前の少年が茶漬けを所望か!」
砂色外套男が笑い出す。
「良いよ!国木田君に三十杯くらい奢らせよう」
「俺の金で太っ腹になるな太宰!」
男の言葉に国木田は大声で叫んだ。そんな国木田にAは宜しくお願いしますの意を込めて軽くお辞儀をする。
可憐な少女のお辞儀に国木田はもう一度何かを叫ぼうとする。が、思い留まったらしく何故かAにお辞儀を返した。
「太宰?」
何時の間にかお辞儀し合っている二人を横目に敦が問う。
「あぁ私の名だよ。太宰ーー太宰治だ」
生暖かい風が吹く。
風は男ーー太宰の蓬髪、敦の白髪、そしてAの黒髪を揺らした。
「ーーーー」
太宰を見るAが眩しそうに目を細める。
ーー太陽の光に照らされた少女の瞳は紫に輝いていた。
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女中(プロフ) - よくねたしおだおぉぉぉぉ!!!さん» 米有難うございます励みになります!!!初めてコメントとかきて過呼吸なりました(Tほんとに!!有難うございます!!! (2022年2月7日 9時) (レス) id: 44e9453d1b (このIDを非表示/違反報告)
よくねたしおだおぉぉぉぉ!!! - ウワァ、、好き、、もっと評価されるべき!更新待ってます!!! (2022年2月6日 19時) (レス) @page45 id: a2762c3708 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:女中 | 作成日時:2021年12月4日 16時