三十六話/溶け合って混ざり合って ページ36
「ん……」
「ーー!」
寝返りを打ったかと思うと、敦はまた気持ちよさそうな寝息を立て始めた。
その少年の様子に、杞憂だったかとAは安堵。
それから用意された蒲団に潜り込むと、もう一度敦の方を見やって、
「おやすみ……敦君」
「ーーーー」
矢張り返事は返ってこない。
しかしAは満足気に口元を緩め乍ら、その黒紫の瞳を閉じたのだった。
※※※※※※※※※※※※※※
ーー声が、した。
「ーーーー」
そのどれもが
だから、それが自分の名前を読んでいる声だと気付くのにかなりの時間を要した。
気付けたのは、そのどれもが聞いた事のある声だったから。
声は、酷く哀切に嫌悪に憐憫に恐怖に嫉妬に義憤に同情に失望に後悔に落胆に罪悪感に、しかしそのどれもが愛しさに満ちていて、混ざって混ざって混ざりあって、溶け合って何もわからなくなる。
無理解が心を満たしていって、その感覚が心地よくて。
このまま、無理解の海に溺れてしまいたい。
無理解に溺れて声と視線と混ざって混ざって混ざり合って溶け合って何も分からなくなってしまいたい。
しかし、そんな感慨も溶けて溶けて溶け合って混ざり合っていく。
溶けて溶けて溶け合って混ざって混ざって混ざり合ってその次は、その先は、何処に、いくのか。
消えていくのか。自らが生まれた場所に留まるのか。それとももっと奥深くに潜り込むのか。
わからないことがわかってわからないことだけがわかって、
「ーーーー」
ーー声が、した。
その声は目一杯の愛しさを込めて自分の名前を呼んでいた。
聞くと、懐かしさで涙がでそうになる。
「ーーーー」
哀しいかな、その愛に答えることも出来ないままそこで意識が途切れた。
だからその後は知らない。知らないから知らないのに知らないべきなのに知っていては駄目なのに。
Aは、知らないのに。
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女中(プロフ) - よくねたしおだおぉぉぉぉ!!!さん» 米有難うございます励みになります!!!初めてコメントとかきて過呼吸なりました(Tほんとに!!有難うございます!!! (2022年2月7日 9時) (レス) id: 44e9453d1b (このIDを非表示/違反報告)
よくねたしおだおぉぉぉぉ!!! - ウワァ、、好き、、もっと評価されるべき!更新待ってます!!! (2022年2月6日 19時) (レス) @page45 id: a2762c3708 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:女中 | 作成日時:2021年12月4日 16時