三十五話/腑に落ちないのですが ページ35
先程も太宰に話した通りAは『手の内にある物体とほぼ同等の大きさか質量の物の位置を交換する』能力者だ。
それがどうして敦の『虎に変身』する異能とぶつかって矛盾型特異が発生するのか。
両者とも字面で見ると全く関係のない能力だし、何も矛盾していないではないか。ーー否、抑々特異点が矛盾型特異点だけでは無く、他にも種類があるとしたら?
太宰が説明していないだけかもしれない。
考えれば考える程疑問点が浮かび上がってくる。
「ーーーー」
そんな明らかに思考能力低下中のAに太宰は目を細めた。
「私が特異点の可能性を提示したのは現在把握可能な情報の中で、其れが限りなく真実に近いからに過ぎない」
「ーーーー」
「それに、敦君の異能が『虎に変身』するものだと未だ確定した訳では無いからね。あくまで特異点は可能性の域を出ない」
推理めいた太宰の台詞に喉を鳴らし、次に紡がれる言葉を待つA。その黒紫の瞳を太宰が覗き込んできた。
「あ、の?」
Aの瞳に何を見たのか、太宰は上機嫌に鼻歌を歌い出す。
無駄に上手いそれにAが訝しげな視線を演奏者に送ると、
「そういう訳だから今日は酷使した躰を休めるのが先決だよ。それじゃあおやすみ」
「あ」
それだけ言い残し、太宰はすたこらと部屋を出ていってしまった。
「……なんなの」
起承転結全てが腑に落ちない。特に終わり方が。未だ聞きたいことがあったので尚更だ。
だが、太宰の云うことも一理ある。
確かに今日はもう遅いし眠いし早いとこ寝るのが最適解のような気がした。眠いし。
「ーーーー」
ふと、Aが自身の髪を撫でつけると、顔周りの左側に顎元でばっさり切られた部分に指が触れた。
それは敦と共に暮らしていたあの孤児院の子供に切られたものだった。
本来、その子等の要求は毛先の紫を切らせろとの事だったのだが、それは流石に、と代わりに切らせたのが今指が触れている部分だった。
「ーーーー」
左手でそれに触れ乍ら、空いた右手を眠る敦の前髪へと持っていく。
同じく子供達に切られたらしい白髪を指で梳くが、敦は一向に起きる気配を見せない。
ーー本当に、大丈夫なのだろうか。
と、憂いの感情がAの瞳に宿った、瞬間だった。
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女中(プロフ) - よくねたしおだおぉぉぉぉ!!!さん» 米有難うございます励みになります!!!初めてコメントとかきて過呼吸なりました(Tほんとに!!有難うございます!!! (2022年2月7日 9時) (レス) id: 44e9453d1b (このIDを非表示/違反報告)
よくねたしおだおぉぉぉぉ!!! - ウワァ、、好き、、もっと評価されるべき!更新待ってます!!! (2022年2月6日 19時) (レス) @page45 id: a2762c3708 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:女中 | 作成日時:2021年12月4日 16時