三十二話/浅慮の対価 ページ32
またしても何処か引っ掛かる太宰の物云いにAは眉を顰めた。
それから今日一日の記憶を辿り、太宰の言葉の真意を探らんとする。
「ーーぁ」
その記憶の欠片に何を見たのか。Aは自力で疑問に辿り着き、小さく息を漏らした。
もう誤魔化すことは不可能に近かった。
だって、気付いてしまったのだ。一度気付いてしまえば知らなかった頃には戻れない。自分すら欺けない者が他者を欺けるものか。
Aは数秒前の自分を恨んだ。太宰の言葉に誘導された自分を。
だが、それももう遅い。
「君は感じた筈だよ。敦君の異能が私の『人間失格』で無効化された瞬間にーー違和感を」
太宰は御丁寧に一つ一つ説明してくれるらしかった。
Aが気付いていることを知った上で。
性格が悪い。そうやってじわじわと獲物を追い詰めるのが趣味なのだろうか。だとしたら嫌な趣味だ。
「否、Aちゃんが感じたのは既視感か。ーー君は私の異能力を見たことがあるのだから、あの光を見た瞬間に抱いた感慨は既視感以外の何物でもない筈だ」
あの光、とは恐らく太宰が異能を行使した際に虎の躰を埋めつくした青い光のことだろう。
ーーあの時Aは確かに『光』に既視感を感じた。
だが、気の所為だ、とそれに対する思考を放棄した。
それが、間違いだったのだ。あの時真剣に既視感に向き合っていればーー、
「私の異能力無効化に例外はないからね。君に触れた際にも勿論例外なく発動したよ。手に、触れた瞬間に」
青い光の既視感の正体。それは太宰がAの手に触れた瞬間に発動した『人間失格』によるものだったのだ。
Aも例外ではないが、日頃から自分の手を視界に入れている人間なんて居ないだろう。それに、Aはあの時目の前の敦に意識を奪われていた。
そんなAが青く発光する自分の手に気付けた筈もなく。精々、視界の隅でほんのり青い光が映り込んだ程度のものだろう。
「そう、だから君は気付けなかった。」
太宰の声が鼓膜を通って胸に落ちてくる。
「もう一度聞くよ。Aちゃん、君は『手の内にある物体とほぼ同等の大きさか質量の物の位置を交換する』能力者なのだろう?」
もう一押しと云わんばかりの太宰の質問に耐え切れず、今度こそAは太宰の思い通りに顎を引く。
「ーーーー」
そんな少女の瞳に太宰は映っていない。
それだけが、少女の黒紫だけは、とうとう太宰の思い通りにはなってくれなかった。
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女中(プロフ) - よくねたしおだおぉぉぉぉ!!!さん» 米有難うございます励みになります!!!初めてコメントとかきて過呼吸なりました(Tほんとに!!有難うございます!!! (2022年2月7日 9時) (レス) id: 44e9453d1b (このIDを非表示/違反報告)
よくねたしおだおぉぉぉぉ!!! - ウワァ、、好き、、もっと評価されるべき!更新待ってます!!! (2022年2月6日 19時) (レス) @page45 id: a2762c3708 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:女中 | 作成日時:2021年12月4日 16時