二十話/太宰の推理 ページ20
「ーーぁ、Aちゃ、ん」
自虐を尽くしたところで得られるものは人の同情と慰めの言葉だけだ。
でも、口先だけでも、君には生きる価値があると、生きていても良いんだよと。Aには目の前の少年がそんな言葉を求めているような気がしてならなかった。そして、その浅慮な考えは誰かに似ていて、
「ーーそんな事云わないで。敦君は駄目な奴なんかじゃないし生きていても良いんだよ」
口が意図せず言葉を紡いでいく。
「だから……大丈夫。泣かないで?」
淡々と、事務的に言葉を並べていく。
何が、大丈夫なのか。Aは此の少年の何を知って、何を思ってこんな綺麗事を並べているのか。
「ーーーー」
自分で云っておいて嫌悪感が込み上げてくるがAは慈しみの表情を崩さずに、唯、敦だけを見つめていた。
だから、気が付かなかった。それを瞳に映す男の存在に。その瞳にどんな感情を浮かべていたのか。
「
太宰の声に弾かれたように敦は顔を上げる。そして、その拍子に零れてくる熱い液体を乱暴に拭った。
「そろそろかな」
「ーーっ」
太宰がそう云った瞬間、後ろから大きな物音が響いた。Aと敦が体を跳ねさせる。
「……あ、れ?」
恐る恐る後ろを振り向くが、其処には虎どころか虫一匹でさえも見当たらない。
「今、そこで物音が!」
「そうだね」
「きっと奴ですよ!」
「何もいなかったと思う、けど」
「風で何が落ちたんだろう」
二人が敦の言葉を否定するように言葉を並べる。が、敦はそれに聞く耳を持たず恐怖に顔を歪めて立ち上がった。
「ひ、人食い虎だ。僕を喰いに来たんだ」
「ちょっと……落ち着い」
「座りたまえよ敦君。虎はあんな処からは来ない」
「ど、どうして判るんです!」
Aも目の前の少年と同意見だ。何故太宰は涼しい顔でそう云い切れるのだろうか。何か根拠がーー、
「そもそも変なのだよ敦君」
無言の空間に本を閉じる音が響いた。
「経営が傾いたからって養護施設が児童を追放するかい?大昔の農村じゃないんだ」
それは、判る。Aが最初に感じた違和感もそれだった。
「いや、そもそも経営が傾いたのなら一人二人追放したところでどうにもならない。半分くらい残して他所の施設に移すのが筋だ」
これも判る。だが、その先が分からない。
「太宰さん。何を云ってーー」
そこで言葉が途切れ、Aは訝しげに敦を見やった。
「……敦、君?」
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女中(プロフ) - よくねたしおだおぉぉぉぉ!!!さん» 米有難うございます励みになります!!!初めてコメントとかきて過呼吸なりました(Tほんとに!!有難うございます!!! (2022年2月7日 9時) (レス) id: 44e9453d1b (このIDを非表示/違反報告)
よくねたしおだおぉぉぉぉ!!! - ウワァ、、好き、、もっと評価されるべき!更新待ってます!!! (2022年2月6日 19時) (レス) @page45 id: a2762c3708 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:女中 | 作成日時:2021年12月4日 16時