十二話/ 月が照らす黒紫 ページ12
「ーーちょ、待っ……」
この小一時間で起きたこと。その全てが唐突すぎた。
自分が今置かれている状況が理解出来ず、Aは職員に問いかけようとする。だが、Aが言葉を紡ぐことは無かった。
「ーーーー」
Aの頬を叩いた男。その後ろの職員達がほぼ全員小声で何かを呟いていたからだ。
一人ならまだしもこんなに大勢の人間が一斉に話している光景は誰がどう見ても異様だった。
虫の五月蝿い鳴き声の方が百倍マシだ。
「ーーーー」
そんな五月蝿い周りの職員に同調することもせず、この院の院長とやらは無言で佇んでAの方を見るだけだった。
Aの頬を叩いた男の後ろから、汲み取れない視線を送ってくる。
その異様な光景を瞳に写し、Aは必死に耳を傾けた。
これでは、このままでは何も分からないまま、知らないまま外の世界に放り出される事になってしまう。
飛び交う言葉の中で、Aの耳を掠めたのは数えられる程度の単語だけだった。
使えない耳だ。
「ーーぁ」
だが、自分を罵るより先に扉は閉められ、Aは完全に暗い夜の中取り残されてしまう。何だか一人だけ世界に置き去りにされたような不思議な気分だ。可哀想な自分。
「……よし」
だが今のAにはそんな感傷に浸る余裕も時間もない。少女は立ち上がり、服に着いた汚れを払い、そして足を一歩、前に踏み出した。
此処で立ち止まっていたって何も変わらない。此処で立ち止まるほどAは弱くない筈だ。
考えないと。考えろ、考えろ、
「ーーーー」
そうして記憶を総動員させていると、頭の中でカチリ、と何かが嵌まった音がした。
先程職員が話していた白虎、これは恐らく昨日孤児院を襲った虎の事だ。畑を荒らして蔵を吹き飛ばしたらしい。
穀潰しだとか院長が何とかとか餓鬼は死ねだとか親に捨てられただとか。
それらの単語が飛び交う事は此の孤児院では日常茶飯事だった。酷い孤児院だ。
しかし、職員が口にした単語。その中で一つだけ引っかかる単語がーー、
「なんで、そこで…敦君?」
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女中(プロフ) - よくねたしおだおぉぉぉぉ!!!さん» 米有難うございます励みになります!!!初めてコメントとかきて過呼吸なりました(Tほんとに!!有難うございます!!! (2022年2月7日 9時) (レス) id: 44e9453d1b (このIDを非表示/違反報告)
よくねたしおだおぉぉぉぉ!!! - ウワァ、、好き、、もっと評価されるべき!更新待ってます!!! (2022年2月6日 19時) (レス) @page45 id: a2762c3708 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:女中 | 作成日時:2021年12月4日 16時