二十三話/太宰治の異能力 ページ23
人の考えも他所に顎に手を当てて呑気に呟く太宰。Aは彼を視線で殺さんばかりに睨み付け睨み付けーーそして、走り出した。
それに虎が寸分遅れて気づき、追いかけてくるが、
「ーー遅い。けど、無理無理無理無理怖い怖い怖い怖い死にたくない……!」
流石にずっと虎から逃げる事は出来ないが、太宰くらいまでの距離だったら恐らく間に合う。否、間に合わないと死ぬ。死んでも間に合わせる。死んだら呪ってやる。
そう、絶叫して黒髪を揺らし乍ら向かってきた少女を胸元で受け止め、太宰は「おや」と微笑んだ。
「私と心中してくれる気になったのかい?」
「私……私は別の機会にと云いまし、た……し、それに死にたくあり、ません」
胸を上下させ、息も絶え絶えな様子で呟くAの返答に太宰は態とらしく肩を竦めた。
こんな状況の中、あくまで飄々とした太宰を崩さない思わず怒鳴りたくなる。が、今はそんな余裕も時間も無い。
Aは前方を指差し、怒鳴り声の代わりに叫んだ。
「太宰さん!虎!虎来てます!!」
Aの瞳に映るのは最初と同じ光景。虎か此方に飛び掛らんと宙に舞う。顔が、近付いてくる。
「美女と共に獣に食い殺される最後と云うのも中々悪くはないが」
太宰が虎に向かって手を伸ばした。
「太宰さ……危なーー」
「君では私を殺せない」
再度死を覚悟したAの鼓膜を再度太宰の声が擽った。
「な……」
目前の光景が信じられない、理解が出来ない。
今日だけで既に五、六回は経験しているそれは此処でも親しげに顔を出し、Aを見つめている。
現れる度、奴が行使する、脳に、心に、無理解を叩き付けてくるその忌々しい魔法は今回も例外ではなかった。
ーー実際、Aの目はそれを証明するかの如く大きく見開かれ、整った顔には驚愕の表情が深く刻まれている。
「ーーっ」
その驚愕の源泉は太宰の細い指が虎に触れた。その瞬間、虎の白い巨躯が青い光に包まれたからに他ならない。虎が光に埋めつくされ、一層増す輝きにAが目を細める。
それから、一秒もしない内に光の源に変化が生じた。虎の白い巨躯が一瞬で消える。
そしてその代わりに、
「私の能力はーーあらゆる他の能力を触れただけで無効化する」
「敦……君」
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女中(プロフ) - よくねたしおだおぉぉぉぉ!!!さん» 米有難うございます励みになります!!!初めてコメントとかきて過呼吸なりました(Tほんとに!!有難うございます!!! (2022年2月7日 9時) (レス) id: 44e9453d1b (このIDを非表示/違反報告)
よくねたしおだおぉぉぉぉ!!! - ウワァ、、好き、、もっと評価されるべき!更新待ってます!!! (2022年2月6日 19時) (レス) @page45 id: a2762c3708 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:女中 | 作成日時:2021年12月4日 16時