5.いつだって人を幸せにするのは、平穏である ページ5
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店内の角隅に飾られてある観葉植物は、結構な大きさにまで育っている。
朝起きてからの日課である水遣りは、朝に大変弱い都にとって割と面倒な仕事である。けれど、だからと言って朝から準備に忙しいオーナーの仕事を増やすわけにもいかないので、寝ぼけ眼のままふらつく手でじょうろを傾けた。
「おはよう、都ちゃん。
いつも悪いねぇ。」
『…いやだいじょうぶです、…おぉなぁの、手を…わずらわせるわけ、には…』
「都ちゃん、今注いでるのは鉢じゃなくて床だよ」
『ああっ』
学生や会社員ならば、もう通勤通学の時間帯だろう。
オーナーの苦笑した、それでいて温かみのある声色にハッとし、慌てて焦点の定まらない目で床に目を向ければ小さな水溜りができていた。眠気なんて吹っ飛ぶ。
『ごめんなさい!!直ちに拭きますねすぐに』
「大丈夫大丈夫」
オーナーが、薄っすらと皺の刻まれた目尻をくしゃりと和らげて微笑む。その表情はまさに、少しやんちゃな孫を見るそれだ。
本当に彼は優しい人だ。その人柄の所為か、ここ店の常連客は皆彼を慕っている。料理の腕もさることながら、その包容力に人は惹かれていくのだ。
薄い花柄の刺繍が入った控えめだけれど、柔らかい雰囲気を醸し出すレースのカーテンからさす朝日に、店内に流れるゆったりとしたBGM。
朝は苦手だけれど、何よりも平穏なこの時間が都は大好きだった。
濡れ雑巾を手に、水をこぼしてしまった床を拭きつつ、都は思い出したように声をあげる。
もう一つの日課があったのをすっかり忘れていたのだ。
『オーナー、今日は駅前で有名アーティストのミニライブと、此処から少し離れた通りで何だか子供向けのイベントをやるそうなので、いつもより食材を多めにしておいた方がいいと思います。
普段よりも、若年層の客入りが望めるので…あ、パフェに使う果物はまだ充分ありますか?』
「うーん…昨日は暑かったからねぇ、果物類はちょっとばかし足りないね」
『じゃあ買ってきますよ、開店時間までまだ時間ありますし。』
「ありがとう、都ちゃん。私はそういう最近の――いんたーねっと?とかいまいち使えなくてなぁ」オーナーの感謝の言葉を胸に、少しだけ頰を綻ばせる。お役に立てるのなら何よりだ。自分は昔から奉仕することに嬉しさを見出すタイプらしい。
その日の近くで起きる出来事などを調べ、客入りを予想する――これも、情報機器に長けた都にとっての日課であった。
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雪原(プロフ) - ふぃおさん» 申し訳ありません。ご指摘ありがとうございます。修正しました! (2017年12月22日 22時) (レス) id: b79552e05e (このIDを非表示/違反報告)
ふぃお(プロフ) - 26話辺りから名前変換出来ていませんよ〜 (2017年12月22日 22時) (レス) id: 86fe828a4e (このIDを非表示/違反報告)
リオ - 設定から書き方までツボ過ぎてやばいっすわw続きがくっそきになるので更新頑張ってください!! (2017年9月18日 20時) (レス) id: 0dc7e3ba93 (このIDを非表示/違反報告)
雪原(プロフ) - すりぴいさん» コメントありがとうございます。稚拙な文章ですが、そう言って頂けて大変嬉しいです!不定期になるかとは思いますが、精一杯頑張ります…! (2017年9月18日 20時) (レス) id: 4141bf49c5 (このIDを非表示/違反報告)
すりぴい - ンンンンッ!!好きです。更新頑張って下さい! (2017年9月18日 19時) (レス) id: 796ae87385 (このIDを非表示/違反報告)
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