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1.いつだって人を幸せにするのは、平穏である ページ1

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人に誇れるものと聞かれれば、情報機器の扱いに長けている――という点ほどしか上がらない。逆に自身の欠点は?と問われれば、それは湯水のように溢れ出てくる。
それは、いついかなる時も自分を軽視してしまう悪い癖だ、と昔とある同僚から指摘されたことがある。その時彼は困ったように苦笑して、「自分を大切にしろ」と教え説いたのを覚えていた。


今は駅前の小さな喫茶店で店員をやっている。前職はとてもじゃないけれど人に言えないような仕事をしていた自分は、そんな彼の教えに則って自分を大切にしてみたつもりである。
その結果がこれだ――齢二十四にして、フリーター。

収入こそ微々たるものであったが、幸いなことにその喫茶店のオーナーはとても優しく温厚な方だった。ひょんな事から偶然出会った得体の知れない人間の得体の知れない履歴書を見てもにこやかに雇ってくれた。ああ、なんとお優しいことか。

身の上を知ってもなお、店員として雇ってくださり、尚且つ喫茶店の二階である居住空間の一室に住まわせて貰える始末。彼を女神と言わず何と言う。男だけれど。

一応、オーナーに迷惑をかけないよう、就職活動をしてはいるものの中々採用してくれる企業はない。そりゃあそうだ、自分だってこんな履歴書みて採用する気すら起こらないどころか警察に通報したくなる。勿論、ブラックの塊である職歴は白紙だ。
だから、居住空間を提供してくれるのは非常に有り難かった。家賃はいらず、ただしっかり業務をこなしてくれれば構わない、と朗らかな笑顔で肩を叩いてくれた感覚はまだ残っている。


「――都ちゃん、お疲れ様。
そろそろ閉店時間だから、戻っても良いよ。良かったらテーブルの上、食べてね。」
『ありがとうございます、オーナー。』


ライトブラウンで揃えられたテーブルを拭き終わると、厨房から顔を覗かせるオーナーに返事を返す。
初老を迎える歳の筈なのに、朝と変わらない明るさで、後ろのテーブルの上に置かれてあるトレイを指差した。

夕飯代わりに、ということだろう。有難い。
今月はついついネットを使いすぎてしまったせいで、貯金があまりないのだ。夕飯を抜くことなんてざらにあるが、たまにこうして余り物――と言っても立派な料理――を頂けるのは、冗談抜きで胸がじんわりと温かくなる。

入口の看板をOpenからClosedに掛け直すと、テーブルに駆け寄る。
まだ温度の残るそれらを見て、ついつい頰を綻ばせた。




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2.いつだって人を幸せにするのは、平穏である→



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雪原(プロフ) - ふぃおさん» 申し訳ありません。ご指摘ありがとうございます。修正しました! (2017年12月22日 22時) (レス) id: b79552e05e (このIDを非表示/違反報告)
ふぃお(プロフ) - 26話辺りから名前変換出来ていませんよ〜 (2017年12月22日 22時) (レス) id: 86fe828a4e (このIDを非表示/違反報告)
リオ - 設定から書き方までツボ過ぎてやばいっすわw続きがくっそきになるので更新頑張ってください!! (2017年9月18日 20時) (レス) id: 0dc7e3ba93 (このIDを非表示/違反報告)
雪原(プロフ) - すりぴいさん» コメントありがとうございます。稚拙な文章ですが、そう言って頂けて大変嬉しいです!不定期になるかとは思いますが、精一杯頑張ります…! (2017年9月18日 20時) (レス) id: 4141bf49c5 (このIDを非表示/違反報告)
すりぴい - ンンンンッ!!好きです。更新頑張って下さい! (2017年9月18日 19時) (レス) id: 796ae87385 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雪原 | 作者ホームページ:http://ない  
作成日時:2017年9月15日 17時

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