6『最低な私たち』 ページ6
( た の し い で す か)
私が口パクで送った問いかけに、彼はあのときこう答えたのだ。
( タ コ さ ん ウ イ ン ナ ー 食 べ た い )
質問に対する返答になっていない、ふざけ切った珍回答を頭の中で反芻しては、2つ目のウインナーを頬張る彼を尻目にひとりごちる。
「三郎くんって、馬鹿なの」
私の小さな呟きを聞き届けたらしい彼が、ニヤリと笑みを浮かべて。
ごくりとウインナーを飲み込むと、私の頬に片手を伸ばしてきた。
今日は一段と距離感がおかしいなと彼を見やると、その親指が私の唇の端から端をそっと撫でつける。
先程彼の摘んだウインナーの油が擦れる艶かしい感触に、肩が強ばって。
私が驚きのあまり言葉を発する前に、更にぐっと顔を寄せてきた彼の囁きが耳元で鼓膜を揺らした。
「あの状況で『たのしいですか』なんて聞いてきた女が…よく言うよね」
“馬鹿はどっちだよ。”
吐き捨てるように言葉を放った彼が、立ち上がって教室を出ていく。
呆然とする私の手元には、空っぽになったお弁当箱だけが残されていて。
しばらく固まったまま動けない私を呼び起こすかのように、ポケットの中のスマートフォンが震えた。
三郎くん：
【帰らなくていいのぉ？ もうお外暗いよぉ、お家の人が心配するよぉ】
液晶画面に表示されたうざったらしいメッセージの通知を手荒に切り、ぷんすかとお弁当箱を片付け、ずんずんと音を立てながら歩き出す。
下駄箱に到着すると、意地の悪い笑みを浮かべた君が昇降口の扉に背を預けて立っていた。
「お互い夜道で悪いオトナに食べられないよう、お手手繋いで帰りましょ」
馬鹿にするような口調にべーっと舌を出しながら靴を履き終え、そのまま彼の前に仁王立ちすると、さりげなく手を繋がれて。
その瞬間、冷えきった指先に一気に血が巡り始める。
ねぇ。
いくらもう他の生徒みんなが帰ってる時間だからといって、こんなところ誰かに見られたら、相当やばいんじゃないの。
そう思っても口にできないのは、この状況を密かに楽しんでいる自分がいたからだった。
「…最低だね」
君も、私も。
「バレなきゃいーんだよ」
悪びれることなく言った彼の足に一蹴り入れてやると「なんだよ」とうざったそうに睨まれる。
馬鹿。誰かに聞かれたらどうするの。
それから私の手を引いて歩き出した彼の表情は、夜の闇に溶けて読み取ることができなかった。
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美月(プロフ) - れいさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます…！そう言っていただけるとすごく力になります。続編の更新頑張りますね。今後の展開も楽しみにしていてください！ (2020年4月26日 20時) (
レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
れい - 素敵な話です。こういう話大好きです。言葉の表現の仕方も素敵で読む手が止まりませんでした。今まで一番好きな小説です。これからも応援してます！更新楽しみにしてますね！ (2020年4月26日 19時) (レス) id: b42eb02cf2 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - ぱあたんさん» こんにちは。嬉しいお言葉をありがとうございます！(; ;)これからも楽しんでいただけるよう、更新頑張ります！ (2020年4月25日 13時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
ぱあたん(プロフ) - 気になったので読んでみましたがとっても面白くて読む手が止まりませんでした！これからも応援させて頂かきます！ (2020年4月25日 6時) (レス) id: 5f3f43ce15 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - ハネムさん» こんばんは！乱数くんの小説でもコメントくださりありがとうございました。タイトルの意味もキャプションもお話もかなりこだわっているので、そう言っていただけて嬉しいです！(; ;)更新頑張りますね！ (2020年4月24日 23時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：美月 | 作成日時：2020年4月23日 20時
