5『答え合わせ』 ページ5
「てか、はぐらかすなよ。なんで昼休みにあの場所にいたんだ」
いちばん掘り返して欲しくないところを突きつけられて、今度は私がため息をつく番だった。
「休憩しに行こうと思っただけ。…本当だよ？」
嘘なんてついていない、事実を伝えているだけ。
私のお気に入りの場所に突然、しかも最悪のセッティングで踏み込んできたのはあなたの方でしょう。あくまで被害者はこっちなのだ。
だというのにこんなに疑り深い目を向けられてしまうなんて…まったく、世の理不尽なこと。
たちまち凄んできた彼に心の中でそう毒づくと、急に身を乗り出され、顔が近づいてくる。
なんなの、突然。
ぐっと息を呑んだ私の真ん前で、ぴたりと止まる唇。
嫌な予感に拳を握りしめると目の前の唇が十三回、規則的に言葉を紡いで。
思い描いていたものとは違った彼の言動に一瞬「は？」と頭にクエスチョンマークを浮かべるが、すぐに思い出す。
大きな木のしたと渡り廊下、遠すぎる点と点の先、彼と交わした秘密のメッセージ。
だが昼休みのときと違ったのは、その一つ一つに今度は音がついていたこと。
あの時彼が私に何を伝えようとしていたのか、この期に及んでようやく判明したのだ。正直もう気にしていなかったし、聞く必要もなかったはずなのに。
「…」
互いに無言のまま見つめ合う今、昼休みのときに感じた私たちの距離間はまるで嘘みたいで。
思い返せばあのときの君の瞳は恐ろしいほどに冷たかったけれど、今ここで私を見つめる瞳には静かに熱がこもっているように見える。
それは、私の都合いい妄想なのだろうか。
どうして私にそんな目を向けるのか、今ここで問うのは間違いだろうか。
結局、そんな勇気も出せずに勢いよく肩を押し返して。
むっと唇を尖らせてみせれば彼はくすりと笑いをこぼした。
私がしぶしぶお弁当箱を取り出し蓋を開けるなり、
彼は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせ、骨ばった長い人差し指と親指で中身のおかずをつまんで。
流れるように口に放りこまれたその食材が、彼の咀嚼によって肉汁を飛ばしていく。
「あー、おいし」
心底満足そうにおやつを噛み締める彼は、慇懃無礼な男子中学生なんかじゃない。可愛らしい少年の姿そのもの。
あの子には見せない彼の姿。
みんなの印象とは程遠い彼の一面。
私にだけ見せてくれる本当の君。
こんな男に惚れてしまった罪は深い。
絶対絶対、好きになってはいけない男だった。
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美月(プロフ) - れいさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます…！そう言っていただけるとすごく力になります。続編の更新頑張りますね。今後の展開も楽しみにしていてください！ (2020年4月26日 20時) (
レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
れい - 素敵な話です。こういう話大好きです。言葉の表現の仕方も素敵で読む手が止まりませんでした。今まで一番好きな小説です。これからも応援してます！更新楽しみにしてますね！ (2020年4月26日 19時) (レス) id: b42eb02cf2 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - ぱあたんさん» こんにちは。嬉しいお言葉をありがとうございます！(; ;)これからも楽しんでいただけるよう、更新頑張ります！ (2020年4月25日 13時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
ぱあたん(プロフ) - 気になったので読んでみましたがとっても面白くて読む手が止まりませんでした！これからも応援させて頂かきます！ (2020年4月25日 6時) (レス) id: 5f3f43ce15 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - ハネムさん» こんばんは！乱数くんの小説でもコメントくださりありがとうございました。タイトルの意味もキャプションもお話もかなりこだわっているので、そう言っていただけて嬉しいです！(; ;)更新頑張りますね！ (2020年4月24日 23時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：美月 | 作成日時：2020年4月23日 20時
