34《大好き》 ページ35
***
すっかり夜になってしまった頃、「そろそろ私、帰ります」と三人に告げる。
一郎さんも二郎さんも「もうそんな時間かー」と、名残惜しそうな反応を見せてくれて。
思い返せば三郎くんに勉強を教えてもらう体でこの家に来たのに、テスト前だということも忘れてすっかり楽しんでしまった。
でも、不思議と罪悪感はない。一郎さんと二郎さんと仲良くなれて、そして三郎くんと同じ時を過ごせて。
多分今日、これまでの人生にないくらい、最高に幸せな一日だったと思う。
「三郎、Aのこと家まで送って行ってやれるか?」
「勿論ですよ一兄。こいつすぐ迷子になりそうなので、僕がお手手繋いで帰ってあげなくちゃ」
「っ、子供扱いしないでよ」
送ってくれると快く引き受けてくれながら、相変わらず私に対して口の減らない三郎くん。
それに唇を尖らせながら玄関で靴を履いていると、「なあ、A」と二郎さんから声をかけられる。
「? 何ですか、二郎さん」
「今日はありがとな。色々話できて、面白かったぜ」
「い、いえいえこちらこそ!私も、すごく楽しかったです。ありがとうございました」
「おう。それと……」
「?」
二郎さんは、長い人差し指でポリポリとこめかみ辺りを搔いて、一瞬何か考える素振りをする。
黙って返事を待つと、やがて彼はちょっと恥ずかしそうに視線を逸らして。
「三郎はすぐ生意気な口聞くけど……Aにはこれからも、こいつと仲良くしてやって欲しい」
ぶっきらぼうだけど、確かな意味の込められた優しいお兄さんの言葉。
私の隣で三郎くんは、言葉を失っている。
そして、その白い頬がカーッと染まっていった。
私は、「ああ、あの二郎さんがちゃんと、三郎くんのお兄さんらしいこと言ってる…」と、感動しながら、自信を持って返事しようとした。
「当たり前じゃないですかっ! だって私、三郎くんのこと、だいっ……」
そこまで言って我に返り、口を止める。
…私今何言おうとした?
「…」
「…」
「…」
黙ったままの三人の顔を見れない。
私はたまらず俯いて、言葉を紡ぐ。
「……だ、だ、……大事な友達だと…思っているので……」
咄嗟のごまかし。
効力があるかは、分からない。
今の私、完全に『大好き』って、言ってしまうところだった。
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美月(プロフ) - れいさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます…!そう言っていただけるとすごく力になります。続編の更新頑張りますね。今後の展開も楽しみにしていてください! (2020年4月26日 20時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
れい - 素敵な話です。こういう話大好きです。言葉の表現の仕方も素敵で読む手が止まりませんでした。今まで一番好きな小説です。これからも応援してます!更新楽しみにしてますね! (2020年4月26日 19時) (レス) id: b42eb02cf2 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - ぱあたんさん» こんにちは。嬉しいお言葉をありがとうございます!(; ;)これからも楽しんでいただけるよう、更新頑張ります! (2020年4月25日 13時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
ぱあたん(プロフ) - 気になったので読んでみましたがとっても面白くて読む手が止まりませんでした!これからも応援させて頂かきます! (2020年4月25日 6時) (レス) id: 5f3f43ce15 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - ハネムさん» こんばんは!乱数くんの小説でもコメントくださりありがとうございました。タイトルの意味もキャプションもお話もかなりこだわっているので、そう言っていただけて嬉しいです!(; ;)更新頑張りますね! (2020年4月24日 23時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:美月 | 作成日時:2020年4月23日 20時