14《気づき》 ページ14
デコピンされた額を抑えて「山田くんひどい…」とブツブツ文句を言う私に、彼がそっと口を開いた。
「……女のお前のほうが、夜道歩くには危ないんじゃねーの」
少しだけ、口ごもって言った君に。
自分の意思とは反して、軽く伏せたられた綺麗な睫毛をじっと見つめてしまう。
呆けた私の顔に山田くんがはっと我に返って、たちまちそっぽを向いた。
「そ、その…だから、いつも一緒に帰ってるんだろ」
その言葉に動揺を隠せない。
…え？ そのため？
単純に、学校で話してたから、その流れで一緒に帰るんじゃなくて？
私を…私が、何か事件に巻き込まれないようにって。
そんな気持ちで、私と一緒に帰ってくれていたの？
「…」
「…」
「え……あ、ああ、うん。そうか。…山田くんやさしーっ。私嬉しいなぁっ、あはははっ」
「…」
不意の『女の子扱い』に動揺してポンコツ発揮する私の声に、山田くんはしばらく返事をしてくれなかった。
傍から見れば当たり前の事だったのかもしれないけど、山田くんはちゃんと、私のことを女の子だと思ってくれていたようで。
意識し出すと首元がかあっと熱くなって、俯いてしまう。
いや待て。私が動揺する理由はどこにもない。
だって私は、女の子だし。それは揺るぎない事実だし。
でもどうやら、それを山田くんに言われてしまったことが、私にとっての問題らしい。
その証拠に、身体中熱くなるのが止まらない。
そっか…私。
ストン、と理解した瞬間に、こちらを見つめていた山田くんの瞳を見れなくなってしまった。
胸がぎゅうぎゅうと苦しくなって、痛みに耐えようとたまらず制服のスカートを握り締める。
「ほら、帰るよ」
「う、うん」
教室の扉の前で、見返り美人のように私を待つ君。
やっぱり目だけは見れないまま隣に立つと、「つかお前、ちっちゃ」と小言を言われる。
「うるさいな」と言い返す私の声は、ほんの少しだけ震えていたかもしれない。
「イケブクロに蔓延る悪いオトナたちに食べられないように、お手手繋いで帰りましょ」
そう言って握られた手に背を震わせて。
ほんのり冷たい手の感触に、また胸がきゅんと苦しくなる。
ずるいな。こんなことするなんて。
きっと君はからかっているだけなのに、こんなにもドキドキしちゃうの、悔しいよ。
「馬鹿」
「あっ？ 何か言ったか、馬鹿女」
私。山田くんのことが好きなんだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 98人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
美月(プロフ) - れいさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます…！そう言っていただけるとすごく力になります。続編の更新頑張りますね。今後の展開も楽しみにしていてください！ (2020年4月26日 20時) (
レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
れい - 素敵な話です。こういう話大好きです。言葉の表現の仕方も素敵で読む手が止まりませんでした。今まで一番好きな小説です。これからも応援してます！更新楽しみにしてますね！ (2020年4月26日 19時) (レス) id: b42eb02cf2 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - ぱあたんさん» こんにちは。嬉しいお言葉をありがとうございます！(; ;)これからも楽しんでいただけるよう、更新頑張ります！ (2020年4月25日 13時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
ぱあたん(プロフ) - 気になったので読んでみましたがとっても面白くて読む手が止まりませんでした！これからも応援させて頂かきます！ (2020年4月25日 6時) (レス) id: 5f3f43ce15 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - ハネムさん» こんばんは！乱数くんの小説でもコメントくださりありがとうございました。タイトルの意味もキャプションもお話もかなりこだわっているので、そう言っていただけて嬉しいです！(; ;)更新頑張りますね！ (2020年4月24日 23時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：美月 | 作成日時：2020年4月23日 20時
