11《秘密の場所》 ページ11
それから私と山田くんは、そう長くしないうちに気兼ねなく話せる仲になった。
彼と話す内容は他愛のないことばかり。
今日の授業はとりわけ暇だったとか、ラップに関する話題だとか、お互いの趣味の話とか、そして彼の兄弟の話とか。
「へえ、お兄さんがいるんだね」
と私が相槌を打てば、
「僕の一兄は、凄いんだ!」
と、君は今までにないくらい目をキラキラ輝かせてきて。
そんな、ごくごく普通の会話を彼と交わせる時間が、私にとって心地よいものだった。
学校に行くのが、いつもより楽しく思えてきていた。
やがて席替え後も教室の窓際で2人で話すことが増えてからは、私は周りの視線が気になりだして。
私たちを見て、ヒソヒソと話す声も聞こえるようになった。
これは…何か、勘違いを起こされているらしい。
山田くんは好奇の目など気にしないと言ってくれたけど、私はどうしても周りに誤解を生みたくなかった。
私は昔、といっても中学2年生の頃だけど、付き合ってもない男子との仲を冷やかされて、ひどく傷ついた経験がある。
中学生の噂話の種になってしまうのって、結構こたえることなのだ。
根も葉もない噂が広まれば自分が傷つくのは目に見えていた。
そんなトラウマから、余計な噂が広がることを私は酷く危惧していた。
私の訴えに山田くんは「ふーん」とどこか納得のいかない様子だったけれど、珍しく憂鬱な表情を浮かべる私を気遣ってくれたのか、こう告げてきて。
「人のいないところならいーんだろ。だったら放課後の教室とかはどうだ。そこで僕たち、一緒にいようよ」
誰もいない放課後の教室なら、周りの視線を気にすることもない。
放課後の教室は、部活動で使われることもないし、ここで自習していくほど真面目な生徒はうちのクラス、それどころか他のどのクラスにもいないし。
なるほど名案だね、と笑ってみせれば、彼も嬉しそうに目を伏せた。
放課後の教室は、いつからか私たちの秘密の場所に変わった。
教室内で会話するのを控え、放課後で話すことが増えてからというもの。
私たちは、お互いの意見をありのままに伝えることが多くなった。
「それは違う」「ここはこうするべきだ」と、相手の考えを否定することを覚えたくらいには、本音で語り合える仲になったらしい。
同時に、山田くんが私に「お前馬鹿なの?」と尋ねてくる回数が増えたのは、不本意だったが。
そんな日々が一ヶ月ほど続いた。
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美月(プロフ) - れいさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます…!そう言っていただけるとすごく力になります。続編の更新頑張りますね。今後の展開も楽しみにしていてください! (2020年4月26日 20時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
れい - 素敵な話です。こういう話大好きです。言葉の表現の仕方も素敵で読む手が止まりませんでした。今まで一番好きな小説です。これからも応援してます!更新楽しみにしてますね! (2020年4月26日 19時) (レス) id: b42eb02cf2 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - ぱあたんさん» こんにちは。嬉しいお言葉をありがとうございます!(; ;)これからも楽しんでいただけるよう、更新頑張ります! (2020年4月25日 13時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
ぱあたん(プロフ) - 気になったので読んでみましたがとっても面白くて読む手が止まりませんでした!これからも応援させて頂かきます! (2020年4月25日 6時) (レス) id: 5f3f43ce15 (このIDを非表示/違反報告)
美月(プロフ) - ハネムさん» こんばんは!乱数くんの小説でもコメントくださりありがとうございました。タイトルの意味もキャプションもお話もかなりこだわっているので、そう言っていただけて嬉しいです!(; ;)更新頑張りますね! (2020年4月24日 23時) (レス) id: 37bdf40b5c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:美月 | 作成日時:2020年4月23日 20時