8 ページ8
「ところで銃兎さん。銃兎さんは私の左手の傷のこと、何かご存知ですよね?」
「!」
「……やっぱり」
さっき初めて銃兎さん、理鶯さんと会った時、銃兎さんは開口一番で私の左手の傷のことについて言及してきた。
理鶯さんと左馬刻さんがいる前で触れたくなかった話だからあの時は何も言い返さなかったけど、今は彼と二人きり。
「すごいですね。最近の警察って国民のこと何でも分かっちゃうんですか?」
「…私の手が届くのは
「だとしても、ですよ。男の人が生きづらい世の中なのに、銃兎さんってすごいですね。そんな情報まで手に入れちゃうなんて」
「…嫌味でも言いたいのか」
銃兎さんが、急に声色を低くする。
「…っ、すみません。そんなつもりじゃ」
「冗談です。私の方こそ…もしその傷のことに触れられるのが嫌だったのなら、今すぐに謝罪します」
「…」
私たちの乗るパトカーの前に塞がる赤信号は、まだGoサインを出さない。
「別に銃兎さんの謝罪が欲しいわけじゃないです。でもなんとなくもう、その話はしないでほしい」
「ええ。人間、触れられたくないことのひとつやふたつ、ありますものね。失礼いたしました」
赤信号が青に変わる。銃兎さんがアクセルを踏むと、ヨコハマの街並みが後ろ後ろへと流れていった。
「…銃兎さんにも、あるんですか。触れられたくないことの、ひとつやふたつ」
「出会ったばかりの女に話すほどのことではありませんね」
「…デスヨネ」
ほんと、良い間隔で意地悪な物言いを挟んでくる。
物腰丁寧な人だから、そういう話しぶりを見せられるとちょっとだけドキドキしてしまう。
「貴女が我々にどれだけ貢献してくれるかで、話すか話さないか、変わってくるかもしれませんがね」
「別に、知らなくてもいいですよ」
「ハハッ、貴女は本当に」
その先の言葉を彼は紡がなかったけれど、口元だけは綻んでいたから、まあ褒めようとしてくれてるんだろう。それか嘲笑っているかのどっちかだ。
54人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:美月 | 作成日時:2020年4月15日 21時