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出入口まで来ると、先程出迎えてくれた女将さんが私たちの靴を玄関先で並べてくれる。
「カミさん、今日も世話んなったな」
「いいえ。来てくれて嬉しかったわよ」
左馬刻さんと会話をする女将さんは、とてもお綺麗な方だった。
出迎えてくれた時から思ってたけど、ここの店員さんは皆とても気遣いのできる良い人達ばかりで。
これまでも仕事の関係でそれなりの料亭に足を運ぶことは多かったけど、ここは私にとっては過去訪れた中ではいちばん居心地のいい料亭だった。
「あ、あの…」
左馬刻くんと会話中の女将さんに、ぼーっとする頭で声をかける。
私の呼びかけに女将さんの瞳がこちらを捉えて。
う、美しっ…
ドギマギしながら、私は自分の思いを伝えた。
「ここのお料理、とても美味しかったです。お酒もそうです、思わず節度を守れず飲んでしまいましたが…お店の方もお若いのにとても所作の美しい方ばかりで、感動しました」
「…!」
「お部屋にあったお花も、綺麗に生けてあって、管理が行き届いてるなぁと。も、もちろん、女将さんご自身もっ、とてもお美しくて、貴重な経験をさせていただきました。ありがとうございましたっ」
私の支離滅裂な言葉に、女将さんは大きな目をぱちくりと瞬かせる。左馬刻くんも呆気にとられたように私を見つめた。
それから女将さんは「うふふっ」と花が咲いたように笑うと、
「碧棺くん、とても可愛らしい女の子を捕まえたのね」
と左馬刻くんに向かって微笑んだ。
「は? 可愛らしいだぁ? カミさん、この状況見てそりゃ流石にねぇぜ。あと捕まえたなんて言い方すんな」
「ふふっ」
女将さんは片手で私の頬にそっと触れると、優しい声で言う。
「ありがとう。提供するお料理やお酒、従業員の教育もお部屋の管理も…私なりに努力してきたことばかりだったから、そんなお言葉をいただけてとても嬉しいわ。是非また、うちの店にいらしてください」
そう言って、私たちに頭を下げる。
…この女将さん、一体何歳なんだろう。
年齢当てが得意、と左馬刻くんに言ったが、この女将さんに関しては当てられない気がした。
****
左馬刻くんの舎弟くんの運転する車が、私の自宅の前で停車する。
「左馬刻くん、ありがとうございました。お料理すごく美味しかった」
「ああ。つなわけで、これからもよろしくな」
「うん、よろしく」
ぶっきらぼうな口調の左馬刻くんに「またね」と挨拶をし、車を降りた。
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作者名:美月 | 作成日時:2020年4月15日 21時