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どうしよう。飲みすぎた。

多分良いお酒だから悪酔いとかせず明日の朝ぐらいには抜けてるはずだけど、一時的に今めっちゃきつい。

覚束無い足取りでお手洗いに向かおうとする私を、左馬刻くんが慌てて引き止めた。


面倒くさそうな声と共に後ろから左腕を掴まれ、右肩を支えられて。

そのまま左の耳元で「飲みすぎだろ」と怒られる。

近い距離にびっくりしながら「ご、ごめんなさい…料理もお酒も美味しすぎてつい…」という私の言い分に、左馬刻さんは「ったく…こんなのが歳上とか聞いて呆れる」と頭を抱えていた。

まあそりゃそうだよな。

昨日出会ったばかりの男(しかもヤクザ、歳下)に夕食を奢らせたうえに酔っ払って介抱させるだなんて。27のいい大人がすることじゃない。


罪悪感と共に私が何度「いいよ、一人で行くから」と言っても左馬刻くんは「うっせ。酔っ払いが文句言うんじゃねぇ」と私の身体を支えてついてくる。

それが彼なりの優しさだというのは勿論わかるんだけれど、なにぶんこうされると私の心臓が持たない。

時折背中に当たるアロハシャツに包まれた身体は細いのに筋肉質で、熱い。やけに雄々しいフェロモンに私の頭は余計にクラクラしてしまった。

うん。こんな変な感じがしてしまうのはきっと、お酒のせい。こんな男前が私なんぞを介抱してくれてるのもきっと、向こうもお酒に酔ってるせい。

そう考えながら私は左馬刻くんに身を委ね続けていた。


お手洗いの前に着いたところで、「行けるか?」と問われ、「もう平気、ありがと」と言うと身体が離れる。

何となく寂しくなったような感覚を気の所為だと脳に思いこませて、私はお手洗いに駆け込んだ。


昨日出会ったばかりの人に、私はなんて醜態を晒しているんだろう。

お酒は飲んでも飲まれちゃいかん。改めて心にそう決めながら、私は便器に顔を向けた。




出すもんを出してお手洗いを出ると、出入口のすぐ横の壁に左馬刻くんが背中を預けて寄りかかっていた。



「待っててくれたの…?」

「前後不覚になるほど酔ってる女を放っておけるわけねーだろ」

「こんな短い距離でも?」

「勘違いすんな。帰るんだよ今から」



そう言って、個室とは逆方向に私を連れて行く左馬刻くん。私の酔っ払い方を見てもう家に帰すべきだと判断したのだろうか。



「お、お会計、」

「てめぇが便所ん中でげーげーしてるであろううちに済ませておいたわボケが」

「……面目無い」

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作者名:美月 | 作成日時:2020年4月15日 21時

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