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何となく寂しい気持ちで歩いていたら、突然私の歩いてる歩道のすぐ横の道路に一台の高級車が停車する。
…え、何。ベンツ?
銀色に光るやけに車体の長い車が停車するのを横目で見ていたら、その後部座席のドアが開いて。
「おい」
後ろから呼びかけられた声には聞き覚えがあった。
振り返ると、何となく予想した通りの人物が、昨日とはまた別のアロハシャツを身にまとってこちらに近寄ってきていて。
「よう。昨日ぶりだなクソアマ」
「クッ!?」
「ははっ、おもしれー面してやがる。うし。行くぞ」
「は!? え、ちょっ、」
完全にデジャヴ。暴言吐かれた上に昨日と何ら変わらない動作で左馬刻さんに手を掴まれ、グイグイと引っ張られていく。
「ちょ、待っ! どこ連れてく気!?」
「あ? いいから黙って付き合え」
「いやだ! 用件を言いなさい! いきなり誘拐しないで! 昨日の二の舞!」
私の必死の叫びも虚しく、あっという間に銀色に光るベンツの後部座席に押し込まれた。
「簡単に捕まるお前もお前じゃねーか」
「う"っ…いや、どう考えても誘拐する方が悪い!」
あれよあれよという間に車が発進する。
慌ててルームミラーに映る運転手の顔を確認すると、めちゃめちゃ柄が悪かった。
その人相悪い顔と目が合うと思わず「ひいっ」と声を出し、左馬刻さんのアロハシャツを両手で掴んだ。
「っ…おい」
「お願い殺さないでぇぇぇ」
「殺さねぇよ! 俺たちをなんだと思ってんだ」
「やくざぁぁぁ」
「…ま、間違いじゃねーな」
ああもう、私は家に帰ろうとしていただけなのに…なんで捕まらなきゃならんのよ…
アロハシャツにしがみついて半泣き状態で震えていたら、私の背中に、突然左馬刻さんの片手が回って。
「っ、え?」
そして、その手が私の背中を上下にゆっくりと摩り始めた。その優しい手つきに飛び出しかけていた嗚咽が喉の奥に引っ込んで。
恐る恐る見上げると、そっぽを向いてこちらに一切表情を見せようとしない左馬刻さん。
「その…別に取って食ったりはしねーから…泣くな」
ぼそっと呟く彼の、ほんのり赤く染まった耳を見て、自分がしていることの恥ずかしさを思い知った。
「うわぁっ、す、す、…すみません!!」
私が慌ててアロハシャツを離しその腕から抜け出すと、左馬刻さんも「うおっ」と驚いて、こちらを見た。
だがまたすぐに目を逸らされる。
それからの車内は気まずいほどに沈黙ばかりが続いた。
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作者名:美月 | 作成日時:2020年4月15日 21時