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一本、釘が野薔薇に刺さる。
二本、釘が野薔薇に刺さる。
三本、釘が野薔薇に刺さる。
野薔薇は腰につけたバッグからもう一本を取り出していた。
もういい、もう充分だ。
私は目を覆った。
勝ち筋は見えている。野薔薇が死ぬリスクはない。私がここで行動を起こす必要はない。
それでも。
それでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでもそれでも。
それでも、これ以上は我慢ができない。
私は右手で頭に刺さっていた残り二本の簪を抜き取った。私の長い髪が重力によって下に落ち、三つ編みがその中で解けていった。
長い長い金髪はアスファルトの地面に着く前に停止し、そして浮かび上がった。
「女ァ!!」
前方では男の呪霊が野薔薇の方へと駆けていた。野薔薇はそんな男を見ながら、自分の手首にもう一本の釘を打ち込む準備をしていた。
もう、充分だ。
「兄者…。」
大口の呪霊がそう呟いた直後、私たちにかけられていた術式が解けた。そしてその瞬間、男の呪霊は口から血をこぼした。
「?」
男は理解できないと言うように動きを止めた。戦闘の最中、男の呪霊が自分の体の状態を確認することは叶わなかった。そいつに一直線に向かっている虎杖君ですら、まだ男の身に起こった異変に気付いていなかった。
私にだけ、それは見えていた。
男の呪霊の胸元、ベルトがされているそこには穴があった。暗い暗いその穴を覗けば、そこには心臓があった。穴の開いた心臓が。
「な、にが。」
男の呪霊に向かっていた虎杖君はまだ気付いていない。彼も野薔薇も術式が解けたことで極限まで集中していたからだ。
二つの黒い火花が散った。
『黒閃』
黒閃はそれぞれ、男の呪霊と大口の呪霊の体を弾けさせた。男の呪霊は右肩が消し飛び、大口の呪霊は地面に倒れ伏した。男の呪霊はまだ立っていたけれど、それもお終いだ。
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しょーどくえき - わ!すっごくおもしろいです!続きがとても楽しみです!頑張ってくださいね! (2021年6月20日 16時) (レス) id: 5790125387 (このIDを非表示/違反報告)
猫かぶり - 今は死滅回遊ですよ!!!続きがとても楽しみです!!! (2021年5月21日 20時) (レス) id: 94bc23990d (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 無気力なおバカさん» コメントありがとうございます!この展開は読者様には不評かも、なんて考えている折だったので、これからの展開が楽しみというお言葉に救われました!更新頑張ります。 (2021年1月2日 23時) (レス) id: c6d1d3b3eb (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 糸野さん» コメントありがとうございます!スリルのあるなんて素敵な言葉をいただけて嬉しいです。更新が滞っていますがこれからもドキドキさせられるよう頑張ります! (2021年1月2日 23時) (レス) id: c6d1d3b3eb (このIDを非表示/違反報告)
無気力なおバカ - 面白いです。これからの展開がすごく楽しみです。キャラ達の関係とかもすごく好みです。更新頑張って下さい! (2021年1月2日 3時) (レス) id: 9900cccf42 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柑橘 | 作成日時:2020年11月28日 17時