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「は、なせ。」

絞り出した声はみっともなく震えている。それでも私は声を張り上げ、視線に”悪意”を乗せた。

「私に触るな、呪霊!!」

どすん、と何かが私の首元に刺さる。そして何かが流し込まれたと感じると同時に視界がぐるぐると回り出した。

「う、あ……。」

私の呻き声が聞こえる。体は動いていないのに視界だけがぐるぐると揺れるようなこの感覚は予想外の出来事が起こった時に私が意識を失うときの感覚によく似ていた。

「俺の名前は呪霊じゃない。真人だよ。」

人差し指を私の口元に置きながら呪霊はそう言った。白く濁った思考の中でこいつの声だけが鮮明に脳に反映される。

「ま、ひ、と。」

人差し指で唇にポン、ポン、ポンと触れながらそいつは繰り返した。

「ほら、言ってごらん。」

「………ま、ひと……。」

何を言わされているのかもわからないまま、私はただ音を発した。それに満足したのか、呪霊は上機嫌に頷いて私の首元に刺さった注射器を引き抜いた。

「ごめんね、でもこうしないと俺の心臓止まっちゃうからさ。」

Aの目に見つめられると……キャー!と言って呪霊は顔を隠した。おちょっくっているようにも見えるが、その頬は本当に赤い。赤く染めるためにわざわざ自分の体を作り替えているんだろうか。

「夏油に鎮静剤貰っておいてよかった。これなら君を安全に連れて帰れるよ。」

夏油、鎮静剤、帰る。呪霊の言う言葉の中から聞き取れた単語だけを頭の中で反芻するが、意味までは理解できない。

私の体が揺れた。呪霊が立ち上がったからだ。

「それじゃあ、行こっか。」

そう言って呪霊は歩き出した。一定のテンポで揺れる視界の中で私は考えた。

何がどうなってるのだろう。どうして抱き抱えられてる?この人は誰?私は、どこに連れて行かれるの?

思い出せない。なにも理解できない。

私は重いまぶたを震わせながら、私を抱えている人に聞いた。

「いく……って、どこ、に……?」

枯れた私の声を聞いてその人は私を見下ろした。ぼやけている視界で彼の顔はよく見えないけれど、その口元が弧を描いているような気がした。

「デート。」

ははは、と呪霊の嬉しそうな声が二人だけの渋谷の駅に響いて消えた。

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しょーどくえき - わ!すっごくおもしろいです!続きがとても楽しみです!頑張ってくださいね! (2021年6月20日 16時) (レス) id: 5790125387 (このIDを非表示/違反報告)
猫かぶり - 今は死滅回遊ですよ!!!続きがとても楽しみです!!! (2021年5月21日 20時) (レス) id: 94bc23990d (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 無気力なおバカさん» コメントありがとうございます!この展開は読者様には不評かも、なんて考えている折だったので、これからの展開が楽しみというお言葉に救われました!更新頑張ります。 (2021年1月2日 23時) (レス) id: c6d1d3b3eb (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 糸野さん» コメントありがとうございます!スリルのあるなんて素敵な言葉をいただけて嬉しいです。更新が滞っていますがこれからもドキドキさせられるよう頑張ります! (2021年1月2日 23時) (レス) id: c6d1d3b3eb (このIDを非表示/違反報告)
無気力なおバカ - 面白いです。これからの展開がすごく楽しみです。キャラ達の関係とかもすごく好みです。更新頑張って下さい! (2021年1月2日 3時) (レス) id: 9900cccf42 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:柑橘 | 作成日時:2020年11月28日 17時

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