20 ページ20
虎杖悠仁が死んだ。
それを知らされたのは、病院についてからだった。野薔薇は目が覚めてから、真っ先にそれを知らされた。
「長生きしろよって……。」
蝉の鳴き声が響く夏の午後。野薔薇は境内の石階段の上に腰掛けながら呟いた。
「自分が死んでりゃ世話ないわよ。」
野薔薇はそう言って、意味もなく伏黒君がいる方向とは反対側を見ていた。
野薔薇は今でも気丈に振る舞っているけれど、ショックを受けているのは明らかだった。でも、もっと大変そうなのは伏黒君の方だ。
彼は虎杖くんが死ぬ瞬間を見届けている。話によれば、そもそも特級呪物を飲み込んでしまった虎杖くんを助けたいと五条先生に提言し、呪術高専に連れてきたのは彼らしかった。
伏黒君にとっての虎杖君は、私にとっての野薔薇のように、特別な人間だったんだろう。
「……アンタ仲間が死ぬの初めて?」
「同級生は初めてだ。」
野薔薇の問いに、伏黒君は即座にそう返答した。その声はいつも通りのように聞こえた。
「ふーん、その割には平気そうね。」
「……オマエもな。」
「当然でしょ。会って二週間やそこらよ。そんな男が死んで泣き喚くほど、チョロい女じゃないのよ。」
野薔薇はそう言ったけれど、その言葉が本音じゃないことくらいは、私にもわかった。だって野薔薇は、そういう人間だ。人の死をちゃんと悼む人間だ。
「……小松は。」
「え?」
「オマエは、平気か。」
伏黒君はふいにそう聞いてきた。多分ずっと黙っていた私を心配してくれているんだろう。
「ああ……うん。大丈夫、だよ。」
私は右上のほうに目線をやりながらそう答えた。ちょうど目線の先に、蛹から孵化しようとしている蝉がいたので、私はそれをしばらく眺めていた。
「……暑いな。」
「……そうね。夏服はまだかしら。」
確かに。そろそろもらってもいい頃かも。私はまだ、蝉を見つめていた。
995人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
柑橘(プロフ) - 尊都さん» ご指摘ありがとうございます!変更させていただきました。またなにかお気づきの点があればコメントください。 (2020年11月26日 3時) (レス) id: 3b878783b1 (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - 稔米さん» ありがとうございます!五条先生とはギスギスして欲しいのでこのまま緩くやっていきたいです。 (2020年11月26日 3時) (レス) id: 3b878783b1 (このIDを非表示/違反報告)
柑橘(プロフ) - わかたくさん» ありがとうございます。更新頑張ります! (2020年11月26日 3時) (レス) id: 3b878783b1 (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 五条先生ってみんな下の名前じゃありませんでした? (2020年11月26日 2時) (レス) id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
稔米 - 好き過ぎます!なんかこれから色んな事実が発覚してくのかなーと楽しみにしておりマス!私は五条さんとの絡みが好きです!なんか甘々じゃない感じの…w (2020年11月25日 22時) (レス) id: 861890d0d1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:柑橘 | 作成日時:2020年11月24日 1時