僕と君で見つめる景色

第10話 ページ10

「Aさん！
A、しっかりして！」

抱き起こして頰を叩いてみるけど、相変わらず額には汗が滲み、呼吸も荒い。

『どうしたんだい、ユヅル。そんな大きな声を出して…』

この騒ぎを聞きつけたのか、ブライアンが部屋にやって来てくれた。

倒れ込んでいるAさんを僕が抱きかかえてる状態を見て、絶句している。

「Aさんがいきなり倒れちゃって…！
ブライアン、救急車を呼んで！！」

『わかった』

慌てて部屋を出るブライアンを見送って、僕は改めてAさんの顔を見つめた。

顔色は真っ青で、息も荒い状態にも関わらず…
不謹慎ながら、僕はその顔に、少しだけ見とれてしまった。

切れ長の目に、伏せられた長いまつげ…

なんて、綺麗なんだろうって。

僕は自分の答えを求める為に、この人にとんでもないことをしてしまったんじゃないかと、心が締め付けられた。

『Aが倒れたって！？』

大きな声と同時に飛び込んで来たトレイシーの姿を見て、僕は我に返った。

「あ、あぁ。
ちょっと僕の相談事をしてたんだけど…
突然真っ青になって倒れちゃって…」

内容も内容だし、その挙句彼女に見惚れてたなんて口が裂けても言えなくて。
ちょっと歯切れの悪い感じになってしまった。

するとトレイシーは何か感じ取ったのか、ひとつため息をついて、

『…とりあえず、隣の部屋にベッドがあるから。
そこに運んであげて？
しばらくしたら、彼女も目を覚ますだろうから』

と言って、隣の部屋に行ってしまった。

もちろん僕も彼女を抱きかかえて後をついていく。

Aさんをベッドに寝かす頃には、苦しげだった彼女の呼吸も、穏やかなものになっていた。

そんなAさんの頭をそっと撫でながら、トレイシーは

『Aはね、いろんな事が“見えて”しまう子なのよ』

と話し出した。

「え、見えてしまうって…どういう事？」

『相手の目を見る事で、その人が抱えてること。
気持ち、想い…
その全てを感じ取ってしまうの。
小さい頃はその能力を気持ち悪がられてしまって、親からも見捨てられてしまって…
だからその力が出てしまうと、心に強力なブレーキがかかるんでしょうね…
こんな風に倒れてしまうのよ…
可哀想なA…
人の痛みが誰よりも分かるだけなのに、こんな辛い想いして…』

突きつけられた真実に、僕は言葉が出なかった。

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