山姥切長義の"もしも" (ページ8)

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思い出ページ8

長義side
今更、あの言葉を彼女の目の前で言ったことを後悔する。

『愛姫は、俺よりその偽物くんの方が大切なのかな？』

『やはり、消えてもらった方が速いか。何故か記憶が残っている第一部隊の面々もね』

とても、悲しそうな顔をしていた。
別に、彼女との思い出が無いわけでもない。
ただ、やはりと言うべきか、この本丸でしか彼女との思い出がない。
それ以前に俺たちが会ったことは無いのだから。

俺が本丸にやって来た日の近侍は燭台切だった。
彼は、
燭台切「この本丸にはきみの妹がいるんだよ。仲良くしてあげてね」
と言った。
会ったことのない妹。
ただ、昔北条の屋敷で噂を聞いたことがあった。
妖たちが噂していたのだ。

『伊達には美しい付喪神がいるんだってよ』

『刀の付喪神。それも四振り』

『いいや、三振りだよ。一振りは何処かに行っちゃった』

『しかも内一振りは女の姿をしてるんだって！』

『なんで？なんで？』

『お姫様の守り刀なんだって』

『へぇー』

『しかもその付喪神、ここの山姥切と同じ刀工に打たれたんだってよ』

『それはさぞかし美しいんだろうね』

と、言うのを聞いていた。
それを思い出し、会うのがとても楽しみになった。
確かに、彼女は美しかった。
ただ、刀の特徴故なのか、彼女は短刀でまだ幼さの残る顔立ちだった。
それでも、彼女には美しい以外の言葉が見つからなかった。
が、いざ話してみると美しさの中に少し、愛らしさがあった。
それはきっと元の主から大切にされ、"愛"を知っているからなのだろう。
だから、俺は少し彼女の隣にいるのが憚られた。
確かに俺も大切にされてきた。
写しも打たれた。
だが、終いには写しに己の物語を奪われそうになった。
その写しを愛することが出来るだろうか？
否、出来ない。
出来る訳がない。
彼女はそんな俺を責めなかった。
諫めるばかりで、責めなかった。
それはきっと俺がどの様にこの世にあったのかを知っていたからなのだろう。
いつも偽物くんにあたる俺を澄んだ黒色の瞳で、じっと見つめていた。

彼女に会って謝りたい。
だがそれは後の祭りだ。
もう、後戻りは出来ない。
折角、ここまで来たのだから。
俺が、俺だけが"山姥切"の世界を手に入れたのだから。
ここで終わるようなことはしない。