56 無力 ページ7
「ここで途切れてる…」
渋谷上空。
無下限呪術で空に浮き、六眼も駆使して傑の呪力の残穢を追いかけた。
けれど、東京を出る直前で残穢が跡形もなく消え、Aの呪力もそこで不自然に感じられなくなった。
残穢が途切れたら、それ以上は追えない。
Aの行方も分からないまま。
「傑……何なんだよ、オマエ…」
Aまで巻き込むんじゃねぇ!
どう考えてもアイツは、呪詛師になんて向かねぇだろ。
何で今更連れて行くんだよ…!!
「…Aを、返せよ…ッ」
上空の冷たい強風に晒されながら、山の向こうの空まで意識と視線を飛ばした。
最強の力を手にしても、お前は無力だ。
一番大切な女すら奪われて救えない。
結局、誰も助けられない。
傑に、そう言われたみたいだ。
*
「五条! どうだった!?」
寮に戻って開口一番そう言って、硝子が駆け寄ってきた。
「ごめん…無理だった…」
「…そうか…」
分かり易く落ち込んで俯いて、どう見ても憔悴しきっている硝子に、これ以上の報告は出来なかった。
「…硝子。ちゃんと食えよ。昨日から何も口にしてねぇだろお前」
「…二年前…五条も、こんな気持ちだったんだな…」
「…俺だけで良かったんだけどな…」
誰にも…あの日の俺と同じ想いを味わわせたくなくて、俺は自分の能力を底上げしたはずだったのに…
「護れなくて…ゴメン…」
「…五条のせいじゃないよ。Aも…夏油も…」
分かってる。けど…
どうしても納得できねぇ。
傑の時も、今回のAも。
俺が常に傍に居れば、絶対に行かせなかったのに…
引き止められたのに…
そう考えてしまうから。
何で傍に居なかったのか…って、後悔ばかりが積もっていく。
それに…
「Aを行かせない方法は、ひとつだけだ…」
「五条…」
「Aを繋ぎ止めておく、その“力”が…俺には無かった…」
Aは、傍にいる俺よりも傑を選んだ。
それだけの事なんだ、これは。
ただし、傑が『呪詛師』である事実が、事態を重くしている。
「悟。上から呼び出しだ。行けるか?」
何だか一回り小さくなった気がする夜蛾先生が、最悪の台詞とともに談話室に現れた。
Aの失踪について、呪術総監部に説明に行ってたんだっけ。
傑の離反に引き続き、Aが失踪。
教え子の愚行を酷く責められたんだろう…声に力がない。
硝子と同じ程度には憔悴しているらしい。
まぁ…二人から見れば、俺も同じか…
「…ははっ…早速かよ…容赦ねぇ…」
「五条、まさか…」
「ま、避けられねぇよな…」
十中八九。
Aが呪詛師認定された時の、死刑執行人の任命だ。
*
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作者名:ゆずあ | 作成日時:2022年12月24日 9時