34 私を呼ぶ声 ページ34
『お前、名は？』
『俺のところに来たのが気に入らないか…』
無言の私に、貴方は何度もため息をついた。
名を名乗ったところで何になるというの…？
私は…その内、貴方に食べられるのでしょう？
それなのに…
『まだ名を名乗る気にはならないか？』
翌日も、そのまた翌日も。
私の名を聞いてくる。
『はぁ…とにかくだ。お前はここに来た時点で俺の妻となる事が確定している。…それでよいのか？』
それに、妻…って…
そんな事を言うものだから、本当に驚いてしまった。
しかも伺いを立ててくれている。
断ってもいいと、帰ってもいいと逃げ道をくれているのだ。
この人は本当に皆が言う『鬼神』なの…？
目の前の彼は、まるでそうは見えない。
根気よく私に名を問い、怯えて心を開かない内には無理に触れようともしない。
絶妙な距離感で見つめてくる。
とても真面目で誠実で優しい“人間”に見えた。
だから…
「宿儺さまは人間を食べるのではないのですか？」
思い余って裏梅さまに問いかけた。
裏梅さまは一瞬ぎょっとした表情を浮かべたけれど、すぐにいつもの穏やかな笑顔に戻り、
『ご安心ください。宿儺様は食に関して異常な拘りはありますが、さすがに人間は食べませんよ。鬼でも蛇でもないのですから』
子供に諭すように、優しく教えてくれた。
少しだけ、宿儺さまへの恐怖が薄らいだ──…
遠い過去の記憶が蘇り、ふと目が覚めた。
どうやら気を失っていたらしい。
周りを見回すと、和室の中央に敷かれた布団に丁寧に寝かせられている。
私…確か、医務室で生徒のみんなと…
楽しむ皆を眺めながら、悠仁くんに貰った薔薇の香りを吸い込んで…
「A」
そう、この声に呼ばれた…
「目覚めたのか…？」
「…宿儺…」
「全て思い出した訳ではないようだな」
私…この人をよく知っている。
遥か昔、一緒に季節を過ごし、冬を迎える前に…
けれど記憶の中の彼は、こんなに赤い瞳ではなかった。
「まぁよい。ここで過ごせば、いずれ全て思い出す」
「ここは…どこ…？」
「俺の生得領域、心の中の世界だ」
「え…」
宿儺の生得領域！？ 心の中の世界！？
意味が…分か…どう…ええ！？
「動揺と困惑が全て顔に出ているぞ。今世のお前は随分と分かりやすいな」
「何それ、悪口？」
「いや、褒めている。面白くて退屈しない」
クツクツと笑う宿儺は本当に楽しそうだし嬉しそう。
私を見つめる細められた瞳には熱が込められていて、嫌でも想いが伝わり分かってしまう。
あぁ…私は宿儺に愛されているんだ…と──…
*
35 素直な心と拒絶反応→←33 今出来ること〈虎杖side〉
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 311人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「五条悟」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆずあ(プロフ) - みぃさん» ご愛読ありがとうございます！続編を楽しみにしていただけて嬉しいです(’-’*)♪ 近いうちにUPしますので、また遊びに来てくださいね！ 完結までよろしくお願い致します！(^人^) (2021年12月13日 0時) (
レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
ゆずあ(プロフ) - ミーコさん» ご愛読ありがとうございます！ 楽しんでいただけて私も嬉しいです(*´∀`)♪ 漠然と想い描いている最後を何とか文章に乗せて完結まで頑張りますので、よろしくお願い致します！(*-ω人) (2021年12月13日 0時) (レス) id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - いつも楽しく読ませてもらってます♪続編嬉しいです！楽しみにしてますね(人 •͈ᴗ•͈) (2021年12月12日 20時) (レス) @page50 id: c397bf8382 (このIDを非表示/違反報告)
ミーコ(プロフ) - 続編ありがとうございます!いつも楽しみながら読んでいます!続編がんばって描いてください!楽しみに待っています! (2021年12月12日 17時) (レス) @page50 id: b974f3c01e (このIDを非表示/違反報告)
ゆずあ(プロフ) - ミーコさん» 応援コメントありがとうございます！キュンキュンいただけて嬉しいです！宿儺&五条&虎杖との絡みとか書きたいことが沢山あって１話詰め詰め型ですが、完結まで頑張りますので、最後までお付き合いいただけると幸せです。(*^ω^)♪ (2021年11月28日 20時) (レス) @page33 id: 2fea8fb6ab (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆずあ | 作成日時：2021年11月6日 18時
