蛤と帆立のホイル焼き ページ13
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行くことを諦めてた野外フェス。その日に行われるはずの収録が少し先に延期になった。
それを一週間前に知って、死に物狂いでチケットを譲ってくれる宛を探した。
無事に手元に届いたチケットを鞄に詰め込み、野外フェスに備えて念入りに準備をする。
前日に彼女のAと共に食事の下拵えをした。
「遠足の前の日ってわくわくしてなかなか寝付けなかったよね？」
『遠足前症候群って言うらしい。ふざけた名前だよな。』
寝付けないなんて言いながらも、俺より随分前に深い眠りについた彼女をみて笑ってしまった。
今朝見てきた天気予報では晴れ予報だった。山の天気は変わりやすい、なんて言うけど、会場に到着する頃には小雨が降り出していた。
キャンプサイトに到着し、急ぎ足でテントを張る。とりあえずテントの中に避難。
「しげくん、この雨止むかな？」
『どうだろ？まあ、雨具あるし、そろそろステージでも観に行ってみる？』
雨に濡れて湿気った雨具にもう一度袖を通す。膝下まであるレインブーツにはもう既に泥が跳ねていた。
俺が観たい海外アーティストや、彼女が気になっていたバンドをのんびり観て過ごす。
いつの間にか雨は止み、雨具も乾ききった。
一旦、雨具を鞄へと仕舞い込む。サングラスにキャップ、そんな姿はその辺りに山程いるから俺がアイドルなんて気づく人はいないだろう。そう思って少し油断してた。
(あれってジャニーズの…？)
(小説書いてる人じゃない？)
そんな会話が耳に入る。
隣りにいたAが俺からさっと離れる。
待て待て、こんな人混みで、しかも山ん中で逸れたら見つけられる自信がない。
『A、待てって』
「来ないで」
『大丈夫だから、ほら。』
彼女の腕を掴み俺の方を見るように促す。もう既に人混みから外れ、周りに俺に気づいている人は居ない。
「ごめんね、しげくん。わたしがもう少し気を遣ってたら…」
『ははっ、なんでお前が謝んの？ほら、もうすぐ暗くなるから、そろそろご飯の支度しよう？』
俺は彼女の手を握り締めるけど、一向に握り返してはくれない。
それどころか、
「逸れないから大丈夫だよ？ほら、しげくんの後ろ、しっかり歩いて行くから」
なんて言って手を離そうとする。
俺はその手を離さずにキャンプサイトまで歩き出した。
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作者名：すず。 | 作成日時：2019年4月28日 1時
