104話 ページ31
「あ、縁ちゃん先輩みっけ!」
「Aちゃん…」
手洗いの洗面所で顔を思い切り洗ったばかりの縁下に、ひらひらと手を振りながら成宮は歩み寄る。
彼は澤村不在の間、試合でミスがあったにも関わらず、それなりにプレーができて勝利したことに一瞬でも満足した自分に腹を立てていたのだ。
「縁ちゃん先輩、今回の試合は本当にお疲れ様でした」
「…俺さ、終わった瞬間安心しちゃったんだ」
「はい」
「次どこが来ても勝ち上がってやる!って思えなかったんだよッ…これからなのに!そんなくそ野郎なんだよッ…くそっ…!」
握りしめた拳を震わせる縁下。
彼女は静かにそれを見つめ、そして次の瞬間その手を優しく包み込んだ。
「ね、先輩。先輩はそれを悔しいと思ったんですよね?」
「…うん」
「なら大丈夫ですよ。貴方はもっと強くなれる。私が保証します!」
「はは…なんかAちゃんに言われると本当に大丈夫な気がするね」
「でしょでしょ!成宮セラピー効きました?」
「悔しいけど効きました」
それなら良かったと言い、にこりと笑う成宮。
そして、そっと握っていた手を外し、くるりと踵を返す。
「戻るの?」
「ええ。でもその前にもう1人セラピーに行って来ようかと思って」
「あぁ、なるほど」
「ふふ皆さん察しが良いですねぇ。ではでは行ってきまーす」
縁下に手を振りしばらく歩いていると、見覚えのある背中を見つけ、小走りに駆け寄る。
後ろからとんっと肩を叩いた相手はビクッと体を跳ねさせ、慌ててこちらに振り向いた。
「成宮さん?」
「やっほーぐっち!…あれ?もしやもうコーチのとこ行って来たんだ?」
「え!何で分かったの!?」
「ふふっそれはねー…」
ぐっと顔を近付け、山口のジャージをすんっと嗅ぐ成宮。
再び飛び上がった山口は顔を真っ赤にさせて後ずさる。
「うえ!?な、なに!?」
「あはは煙草の匂いがしたからそうかなって。私が何か言わなくてもぐっちなら大丈夫そうだね」
「あ…うん!俺、もう一度チャンスを下さいって頼んで来た。次こそは俺の選んだ道を正しくしてみせるよ」
凛々しい顔つきでそう言い切る山口を見て、彼はもう大丈夫だと悟る。
明るく笑った成宮はバシバシと彼の背中を叩きながら歩き出した。
「どんだけ才があっても覚悟がなきゃやっていけないのよ。その点、ぐっちは大丈夫まだまだ伸びるよ」
「うん!ありがとう成宮さん!」
そして2人は皆の元へ向かったのだった。
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おもち。(プロフ) - ルイさん» 本当ですか!嬉しいです(^^♪最終章まで楽しませていただきます(*´`) (2020年4月17日 1時) (レス) id: 753b9a62df (このIDを非表示/違反報告)
ルイ(プロフ) - おもち。さん» わぁぁ!おもち。さん、とても嬉しいお言葉ありがとうございます!!最終章まで近いですが頑張ります♪(おもち。さんの素敵な小説も拝見させて頂いております(*´ω`*)) (2020年4月16日 21時) (レス) id: 94aec662ed (このIDを非表示/違反報告)
おもち。(プロフ) - 今まで読んできた小説の中で内容や設定1番好きかもしれません……!展開の魅せかたがめっちゃ好きです!!更新頑張ってください! (2020年4月16日 16時) (レス) id: 753b9a62df (このIDを非表示/違反報告)
ルイ(プロフ) - 佑奈さん» 佑奈さんありがとうございます!赤葦くんかっこいいですよね…!次の章からはまた登場予定なので楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです! (2020年4月15日 1時) (レス) id: 94aec662ed (このIDを非表示/違反報告)
佑奈(プロフ) - このお話の赤葦くん好き… (2020年4月14日 15時) (レス) id: 174bbcca55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルイ | 作成日時:2016年7月4日 15時