検索窓
今日:6 hit、昨日:6 hit、合計:1,754 hit

その方途を辿るもの・悋気 ページ11

やがて喧騒が聴こえ始めた頃、Aの背後に迫る気配がひとつ。



「おつかれ、シロちゃん」

この軽快且つ胡散臭い声は、

「おつかれさま、迅」

振り返って応答する。そこにはやはり、にこにこと人当たりの良い雰囲気をした迅が立っていた。

「そう警戒しなさんなって。傷つくよ?おれ」
「うん、ごめん」
「素直でよろしい。ところで、起き抜けだったりする?」

謝罪こそすれど、Aは直後で身構えてしまう。そういうところだぞ、迅。

「…うん、さっきまでお昼寝してたよ」
「やっぱり。ほら、ここ」

彼はそう言うなり、彼女の頭に右手を伸ばした。Aは反射的に屈む。驚いて後ずされば、違う違う、と彼は笑う。

「寝ぐせ。自分じゃ分かんないだろ」
「あ」

得心したかのように、口を開ける。頭を気にしだした様子を見届け、迅はAの髪を撫でつけ始めた。
その穏やかな双眸と意外と優しい手つきに、Aは誰かを回顧する。

と、そのときだ。


「オイ」


黒い腕が、横から伸びる。Aの手首を掴み、離さない。
よく知る声。されど、心なしか低くなった音。

「…カゲ?」
「ようカゲ。元気してたか?」

「…」

横槍を入れた影浦は、どちらの問い掛けにも応えない。ただじっと迅を見据えていた。そうして三者三様に膠着していると、彼はより一層眉間に皺を寄せる。

「コイツから離れろ」

ぱしっ。

影浦は不意に、Aの頭に置かれた迅の手を払い除けた。対する迅は憤りもせず、払われた手をそのまま自身の腰に当て、愉快そうに向き直り揶揄を紡ぐ。

「その心は?」

見透かしたかのような、たちの悪い笑み。
しかし影浦は一瞥しただけで、Aの細腕をそのまま引いて反対側へと歩き出す。

「行くぞ」
「え、どこに?」

Aは不思議そうに首を傾げつつも、ひらひらと、掴まれていないほうの手を小さく迅に振った。寝癖直しの感謝のつもりだ。

迅がそれに応えるも束の間、影浦の歩幅が大きくなり彼女は慌てたように足並みを揃えていく。

「…なるほどね」

そうして一人残された迅は、遠ざかる二人の背を暫し見届ける。
やがてゆっくりと目を閉じ、成すべき未来に思いを馳せるのだった。

終わり ログインすれば
この作者の新作が読める(完全無料)


←その方途を辿るもの・花芽



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (7 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
59人がお気に入り
設定タグ:影浦雅人 , ワートリ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:未紺碧 | 作成日時:2022年5月20日 12時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。