※めざめノ歌・IV ページ13
ハルトとミューノを助けてくれた奏者達によると、ハルトは気を失ったまま片手で妹の体を引っ張り、彼らが駆けつけるまでバケモノからひたすら逃げ回っていたらしい。
体は見るも無残なほどにぼろぼろで、あちこちに刻まれた小さな切り傷から血が飛び、とても見るに耐えない姿と成り果てていたそうだ。
バケモノがその様子を面白がって追いかけ回し、油断していたところを一閃。
あのバケモノを倒せたのは君のおかげだと奏者は言うが、当のハルトは憫然たる心持ちであった。
故郷の村は壊滅し、恐怖に駆り立てられて止まったばかりに妹の左足が切断、さらにトラウマを植え付け、自らも一度右腕を失った。
そんな矢先、彼は「アルタイル」に選ばれ奏者となった。
こんなことでは皆を守れないと、彼は努力した。
人が最も感じやすい感情は負の感情であると、どこかの誰かが言っていた。
だから彼は、妹を守る邪魔をした恐怖や不安、痛みというものに打ち勝つため、喜びも悲しみも全てを自分の中に閉じ込めて、感情と感覚自体に愚鈍であろうとした。
そして、バケモノのことを御伽噺だと油断した事実がことの誘因であるとし、先賢に学び、彼らの言葉を自らの言葉とした。
____結果アホが生まれた。
兄が眠りについている間、ミューノは「ミルファク」に選ばれ奏者となった。
ミューノもまた同様であった。
彼女は、転んだ自分が兄の足を引っ張ってしまったという自責の念を抱いた。
だから、一刻の猶予もならない状況でも素早く動けるよう訓練し、いつのまにか変な特技を習得した。
そして、自らを運んでいなければ、兄はあの攻撃を避けていた筈であったと考えた彼女は、暗かった自分との決別を図り、憧れである兄の性格と、自らとは正反対であった“明るさ”を取り入れることで、他人に心配されないような外面を作り上げた。
____結果アホが生まれた。
メーヴィン兄妹は、努力の方向性を間違えつつ頑張った。
兄妹が方向性を間違えたのに気がついたのはもう何年も前の話であるが、これでいいのだと彼らは語る。
奏者ハルト・メーヴィンと、奏者ミューノ・メーヴィンは、黄昏に飛ぶ、足のかけた白い蝶から始まるのである。
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作者名:冬目 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/orazu/
作成日時:2017年10月17日 1時