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水無月 五 ページ13

「やっぱり、傘持ってなかったんだ。
追いかけてきて正解だったね。」

「…凪」

何事もなかったかのように、
凪は笑う。笑って私に傘を差し出してくる。

「一緒に帰ろ?傘持ってきたからさ、
こんなにずぶ濡れじゃ風邪引いちゃうよ。」


「なんで、その傘差してこなかったの?
あんたずぶ濡れじゃない。」

「あ、そっか。傘差さないで、
帰るりん姉を見て急いできたから、
すっかり失念してたよ」

「…部活は?」

「あはは、サボっちゃった。
ということで一緒に帰ろうよ、りん姉」

そう笑う彼に、胸が痛んだ。
嬉しくて、優しさに溺れてしまいそうだった。

今、謝ろう。そうじゃないと後悔する。

「ねぇ、凪」

「ん?どうしたの?」

「この前は…ごめん。冷たくして」

「怒ってたの、やっぱりあれだったんだ。
ううん、全然気にしてないよ。
それより、僕の方こそ気に障ること言ってごめん。」

「謝らないでよ、あんたは何も悪くないじゃない」

「そうかな?でも、ごめん」

結局謝らせてしまう。
でも凪は謝ってしまうと思っていた。
私はそれをわかっていて、凪に謝らせてしまった。

これじゃ、何も変わらない。
私は結局、変わらない。

自己嫌悪の波が私を飲み込もうとする。

その波を追い払ったのは私の前で笑う凪だった。

「りん姉は謝った。僕も謝った。
お互いに何かしたって思ったから、
許し合うために謝った。

僕はりん姉を許すよ。
だから、りん姉も僕を許してほしい。」

そう言って微笑まれたら、私が言えるのは一つだけだった。

「うん、許すよ。凪を許す」

「あはは、ありがとうりん姉。
ところでりん姉、
僕はもう一つ言われたい言葉があるんだけど…」

「そんなにずぶ濡れだと風邪ひくわよ」

「違くて!それにずぶ濡れなのはりん姉もじゃないか!」

わかってる。君がここにきたくれたから、
ずっと、言いたかった。

「嘘よ。________来てくれてありがとう。」

「うん、どういたしまして。
それじゃ帰ろうか。傘一つしかないけどいい?」

「いいよ、全然。ありがとう」

私と凪は一つの傘の下で、
まだ空が泣き続ける中、共に帰路に着いた。

君はどうしてそんなに優しいんだろう。

私が幼馴染だから?

家族のような存在だから?

他に好きな人がいるのに。

ほんの少し期待してしまう自分がいた。

わかってる。きっとここに愛情はあっても
恋慕はないってことに。、

それでも今は、この残酷な優しさに
私は溺れ続けた。

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設定タグ:失恋 , 青春 , 幼馴染   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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作者名:ゆうな | 作成日時:2017年2月28日 2時

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