42話 真意 ページ44
A「すみません…遅くなりました。」
目が真っ赤なまま控え室に戻ると全員が驚いた顔をして俺の方を見る。
佐久間「おいおい、どうした?」
A「なんでもないっす。」
星野「いや、号泣した後だろそれ…。」
A「泣いてないっす。」
斎藤「誰かこのバカにアイス渡してやれ。」
田中「全く…。ほんと今年の1年は手がかかる。なぁ?虹村くん。」
俺が目を氷で冷やしていると、田中先輩の嫌味たっぷりな言葉から尋問の標的は修に向いた。
湊「Aが帰ってきたら話すって言ってたよね。どうして孤立主義な考えになったの?」
虹村「…」
しばらく沈黙が続く。
全員の集中が修に向けられ、次の言葉を逃すまいとする。
虹村「父が倒れました。」
え…?
急に頭が真っ白になった気がした。
そんな素振りは一切見せてなかった。
ずっと笑ってて…唇を尖らせた。
けど、修の悲しそうな苦しそうな表情を見ると確信した。
察されないために頑張っていたのだと。
虹村「父は俺がバスケをしているところが好きで…」
修はそこで言葉を詰まらせる。
鼻をすすったり上を見上げたりして涙を堪えている。
虹村「そんで…俺…。勝ちたくて…父に…俺のバスケしてるとこ…見て欲しくて。焦ってた。部活が楽しくて…バスケが…すげぇ好きで…このチームも大好きで…。けど、父が苦しんでるのにって思うと…何もできない俺が情けなくて。せめてプレーだけでもって…すみません。」
横で湊が泣いているのがわかる。
松下先輩や佐久間先輩、マネージャーも涙ぐんでいる。
田中「ふぅ…虹村。」
少し目がうるんでいる田中先輩が修の前で座り込み、ギュッと抱える。
田中「もっと周りを見ろ。人を頼れ。何のためのチームメイトだよ。」
そこから、修はダムが崩壊したかのように嗚咽をあげながら泣いた。
人がこんなに泣いているところを俺は初めて見た。
それほど不安だったんだろうな…
優しく頭を撫でる田中先輩を見て、斎藤先輩も続く。
しばらくすると修は落ち着いて、小さくお礼を言い、コーチの方を向く。
虹村「私情を挟んでしまってすみません。バスケがチームスポーツなのはよく分かってます。もうこんなことはしないように強くなる。だから…俺をここにいさせてください。」
深々とお辞儀をする修にコーチは告げる。
当たり前だ…と。
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作者名:雪 | 作成日時:2015年11月23日 1時