第七話 ページ9
『はぁ、まったく。なんでこうなるわけ？』
結局あの後お兄ちゃんはボロ負けしまして、何故か僕まで連れてこられています。
「はぁ？俺に云うな。」
『ったく、僕を出していたらよかったものを。』
と云いながら、にっこり笑う。
「っるせぇ。･･･妹に助けられるの、恥ずいだろ。それに、いつもは手前が基本的にやってんだろーが」
『あのねぇ。･･････お兄ちゃんは、羊の人たちに必要とされてるんだから。それに僕はお兄ちゃんの影だよ？』
僕は、中原中也、兄の影だ。基本的に、お兄ちゃんの影武者みたいなことをしてる。けど、重力を操ることしかしてないから、“重力遣いの中原中也”という、大きなものが出来上がった。
『･･････僕自身を見てくれるのはお兄ちゃんだけなんだから。』
「知らね。」
『･･････。』
少し俯く。･･････僕はため息をついた。
『ほんっとに、意味判んないよ。お兄ちゃんの馬鹿。』
「俺からしたら手前の方が意味判んねぇよ。」
誰かに、僕自身を見て欲しい。ねぇ、僕を見て。･･･そうやって、期待をしていた事もあった。けど、期待なんて所詮期待止まりだ。中々現実になんてならない。
『僕は、お兄ちゃんが羨ましいよ』
「そーか？俺は手前が羨ましいけどな」
『なんで？』
「だって、手前は、いつも全力じゃねぇか。何事も。それに、なんでもできちまう。天才だから」
『だって、僕はお兄ちゃんの、中原中也の、影だもん。完璧の中原中也を演じなきゃ。』
誰も見向きなんてしない。してくれない。だから僕は、
『僕は、中原優羽としてじゃない、中原中也としてしか、生きられない、ただの屍なんだ。』
と、少し笑った。
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作者名：十六夜紅葉×山吹 x他2人 | 作者ホームページ：http://yuuha0421
作成日時：2023年6月15日 20時
