呪術師社畜業 ページ10
「硝子ー。なんか置いてあった」
「ん?貸して」
煙草を消しながら手を出す家入に五条が紙を渡す。荒い筆跡で走り書きされた文章。
【こんにちは、家入さん。2年の巾木です。
早速ですが医務室に来ていただけませんか。
我々は反転術式の使い手を求めています】
「なにこれ。この人?なんて名前?」
「あー…行かない方が良いよ」
「なんで?」
滅多に聞かない悟からの忠告に本気で不思議に思い、首を傾げる。性急な文面だが、丁寧な誘いである。
「この人さ、ハバキの人何だけど…」
「けど?」
「社畜一族っつって業界で有名なんだ」
『ごめんね!来てもらってすぐだけどその人達治してくれる?私も終わったらすぐ行くから』
医務室に入った家入に開口一番掛けられた声。視線の先には腕が千切れかけた男性と脇腹を抉られた女性。
『お願いねー!』
そう言って彼女が取り掛かったのは下半身が吹き飛んだ男性の治療。手を翳した途端、何処からか肉片が現れて接合していく。
ぼんやりとそれを見ていると横から声を掛けられる。
「キツいなら代わります」
白衣に身を包んだ少年。家入はそちらを見ずに治療に取り掛かる。まずは脇腹、次に腕。優先順位をはっきりと定めた行為に目を眇める。
『ごめんよ、手伝わせて
よれよれの、血が飛び散った白衣を脱ぎ捨てて少女が言った。胸元には巾木の名札。机に置いてあった水筒を手に取ると、上を向いて一気に飲み干した。
『あ“ー、この一杯の為に生きてる…』
どこのオヤジか。仕草が完全に仕事に疲れた成人男性のそれである。
「貴女がハバキ先輩?」
『そう。君は家入さん?』
「はい。家入硝子です」
少し考え込んで患者を見た。腹と腕を治された男女は昏昏と眠り続けている。眉を寄せてぎゅうと手を握り締めると、真剣な顔で向き直った。
『家入さん、お願いがあります。医療班に是非、入って欲しい』
深々と頭を下げた巾木は一旦頭を上げて、少し躊躇った後に口を開いた。
『医療班は、いい環境とは言えない。徹夜は当たり前で、休日はほとんど無い。助けられない事もあるし、命の取捨選択もしなければならない』
それでも、と頼み込む巾木に情が湧いたのか哀れに思ったのか。あの時の自分を問い詰めたいくらいだが、引き受けてしまったのだから仕方が無い。
「先輩、今日の予定は?」
『一級が5件と特級が1件。二級以下が13件』
「きっついですね」
『そうだね…今度遊びに行こう』
何処が良い?と聞いて来た先輩に付いていこうと決めたんだ。
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作者名:くろ | 作成日時:2020年11月5日 22時