じゅじゅ短編 (ページ17)

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相伝モドキページ17

ボボッと音を立てて札が全て燃え尽きる。冥冥さんの鴉は巨大な木の根を写している。
『先生、行ってきます』

天野渚は禪院の分家の出身である。
術式は“影蟲”。虫の特性を理解する事で、その虫を影を媒体にして呼び出す。自覚した当時は十種影法術に似た術式として期待されたが、虫しか呼び出せない事が分かって、その期待は薄れた。
しかし、特性や構造を理解すれば呼び出せる虫は現存するものに限らない。メガネウラなど化石として残る虫、更には詳細な設定がなされた想像上の虫まで。渚の価値は格段に上がった。

「私も乗せて」
歌姫は教え子の手を取り、巨大な蟻に乗る。移動時に呼び出す緑の蟻は凄まじい速度で這い回り、壁や天井も突き進む。
『私は先輩たちの援護に行きます』
「私は迎撃ね。くれぐれも死なないように」
地面が大きく揺れ、遠くで土煙が上がる。その間歌姫の目は、走り去る人影を捉えた。
「ここで降りるわ。…気を付けて」
渚は返事を返さず巨大な蜂に掴まって、飛び立った。

東堂の耳は虫の羽音を捉えた。
「来たか。虎杖！飛べ！」
「いきなり、言うなっ！」
地面を蹴って空中に躍り出ると足元に青銅色の甲羅が滑り込む。木を薙ぎ倒しながら進む蟲は脳内に直接語りかける。
「『東堂先輩、蟲は着いたら消えます。直接戦闘は出来ませんが、足止めと離脱は任せて下さい」』
それきり消えた声に虎杖が周囲を見渡すが、姿かたちも無い。蟲も何の反応も示さず、目的地であろう根に向かった。

上空に現れた五条。
莫大な呪力が渦巻き打ち出され、花御に到達する直前に虎杖の襟が強く引かれる。
「なん、うお！」
目の前の地面が抉れて山肌に大きな穴が空く。それと同時に花御を抑えていた巨大ダンゴムシ数匹も押し潰される。
『相変わらず、豪快な…』
「良い援護だった、天野」
後ろを向くと同時に襟を離したのは平均的な背の少女。援護と言うのは度々攻撃を肩代わりしていた虫の事だろう。彼女もそれなりに消耗しているように見える。
『帰りは無理ですからね。追跡もしてますし』
額の汗を拭った渚に宿儺が苦い顔をした気がする。

花御を迎えに来た真人は微かな羽音が段々と近付いて来るのを感じた。首を傾げながら花御を担ぎ上げると、通路の奥を見ていた同行者の人間が一目散に逃げていく。同じくそちらを見やった真人の眼に、バッタの群れが飛び込んで来た。
「やば」
ひしひしと感じる虫たちの食欲。迫りくる群れに、真人は足早にその場を去った。