父と娘の再会 ページ35
「失礼致します」
ガチャリ、と開けた扉の先には、色気のある顔立ちをした青年に槍を向けられている国王陛下と王女たちの姿がある
あぁ…やっぱり女神の勘って当たるのね。本当…どうにかしてほしい
「…その槍を下ろして下さい」
「貴様…私を誰だ…と……」
国王陛下から私に視線を向けた青年は、大きく目を見開く
「エリー……?」
蜂蜜のように甘く濃厚な声で呼ばれ、思い出したくもない日々が脳裏に浮かぶ
「エリー、その髪はどうした?あの綺麗な銀の髪ではなくなっているじゃないか……!」
槍を消した青年…否、お父様はフラフラと私に近寄り、私の髪を撫でる。割れ物を扱うように、優しく、優しく
「ご無沙汰しております、お父様。…お元気そうで、何よりですわ」
「お父様…だと?違う。お前は私の妃だ。拒否するなんて許さない」
掴まれた肩が痛い。ギシギシと音が鳴るほど強い力が込められている
「…ラージュ、様」
「そうだ。お前は、私の妃 エレオノーラだ。そうだろう?」
「……ええ」
娘に妃を重ねるなんてあり得ない。どれだけ似ていても別の個体なのだから。けれど、父にとってはそれが当たり前。娘に妃を重ねながらその娘に"子などいない,,と言ってしまえる人なのだ
「王よ、部屋を一つ貸して頂きたい。エリーに見合うだけの美しく豪奢な部屋だ」
「しかし……」
私に気遣うような視線を向けた国王陛下に申し訳なく思い、大丈夫だと笑顔を向ける
「…分かった。部屋を一つ用意しよう」
「それで良い」
傲慢な人だ。確かに精霊は人間から尊ばれ、敬われる。その王ともなれば、多少傲慢になることも理解できる。私自身、そうだから。しかし、それは礼節を伴わなければ許されないものだ。王族は一国の顔である。王族の言動一つで国の未来が左右される。父はそれを分かっていない。精霊王だから全てが許されると本気で思っている
「さぁ、行こう、エリー」
「…はい、ラージュ様」
差し出された手を取らない選択肢は与えられていない。私に許されるのは、父の言う通りに従うことだけ
「お目汚し失礼致しました。…御前、失礼致します」
空いている右手でドレスの裾を軽く摘み上げ、カーテシーを執る
「行こう、エリー」
満足気に微笑む父にエスコートされながら国王陛下の部屋を出た私は、自分を愛してくれる人たちを心に思い浮かべて心を護った
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作者名:アストライアー | 作成日時:2021年10月31日 10時