溺れた魚。【Fischer's】 (ページ8)

今日:2 hit、昨日:5 hit、合計:3,614 hit

おやすみから3秒ページ8

Side マサイ
..............................

筋トレから始まったトレーニング。
ボルダリングに軽めのヨガに、屋上のスペースでバスケもした。
茜色だった空には月が浮かんでいて。

シ「結構疲れたな」

ン「そうだね～」

体力のない俺は既に疲労困憊で。
珍しく優空もバテてる。

ぺ「帰りますか」

モ「帰りましょう」

動画の締めまで撮り終え向かうはンダホ号。
…これ明日筋肉痛コースだな。
脹ら脛がぴくぴくと痙攣してるのが分かる。

『もう動けない』

車に乗り込み小さな声で呟いたのは優空。
確かに身を引きずるように歩いてる。
帰りの車内はみんな疲れてることもあり静かで、睡魔が襲ってくるのにそう時間はかからなかった。

シ「皆眠そうだな～」

助手席に座るシルクが後ろを振り返り、シートの2列目に座る優空と俺、3列目に座るモトキとぺけを見て悪戯っ子な笑みを浮かべる。

『後ろの二人はもう夢の中だよ』

つられて振り返った優空もくすくすと笑いながらモトキとぺけを交互に見る。
その横顔がとても綺麗でまた心臓がうるさくなった。
優空が俺の隣で昼寝をしてたあの日以来、俺はやたらと意識するようになっていた。

ン「着いたら起こすから寝てていいよ」

信号待ちでルームミラー越しに目を合わせながらンダホがそう言ってくれた。

『ありがとンダホ…私わりと限界』

本当に眠かったんだろう、言葉の最後はむにゃむにゃと呂律が回っていなかった。
俺も寝るかなぁ、なんて思いながら欠伸をひとつ。
そこにぽす、という軽い音と肩に少しの重み。
近くなった優空の香りがする。

『ごめんマサイ…肩貸して……おやすみ、』

絞り出すかのような声の後に聞こえるのは規則的な寝息。

マ「おやすみから3秒だよ」

シ「のび太くんだな」

マ「元祖のび太はンダホじゃん」

ン「違ぇよ元祖は野比なの！俺じゃないの！」

「「wwwwwwwww」」

少し前まではなかなか眠れなかった優空。
やっと眠れるようになった、と笑顔で報告してきた日のことは今でも鮮明に覚えてる。
とある"事件"がきっかけで眠れなくなって、その傷は多分、今でも癒えてない。

シ「…覚えてる？あの"事件"のこと」

マ「忘れられるわけねぇだろ」

俺の心情を読み取ったかのようなシルクの問いかけに思わず声のトーンが下がる。
ンダホもこの話をする時だけは普段の調子は消え失せて。

ン「また優空が俺たちの側で笑ってくれてるんだもん。守っていかないとね」