赤と黒と人形少女【wrwrd!】【gr】 (ページ7)

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第5話｢声｣ページ7

A視点

幼い頃なんて覚えてもいない

ただ、たった一人の”神様”にあったのは覚えている

優しいその顔で私に手を伸ばしてくれたその人を

ただ覚えているのは”兄さん”と言うその人の知人が発した言葉で彼が反応したことだけ

その人の見た目もはっきりとは覚えていない

おそらく今見ても分からない

それでも、それでも

私はあなたに会いたい

感情の無くなった私なんてつまらないとあなたは言うのだろうか？

もしそうであっても私はあなたに会って感謝の気持ちを伝えたい

まどろみに飲まれたような私に透き通った声が耳に入る

声が聞こえる

あの人を”兄さん”呼んでいた人の声が聞こえる

その人以外にも声が聞こえる

何人も、多くの声

優しさのある落ち着いた声

どこか気だるげでも透き通る綺麗な声

よく通る覇気のある声

耳に馴染む他の人より高めの声

少し籠っているように聞こえるけど他の人よりよく聞こえる声

そして、どこか舌っ足らずでありながらも力を感じる声

いくつもの声が聞こえては消える

落ち着くようでなんだか落ち着かない

そんなよくわからない感覚がする

身体の浮遊感といくつもの声に目をつぶってこの深い海の底のような意識の中から出てきそうだった

私自身何を言っているのかもわかっていないのが現状だ

でも、この人達はおそらく私のことを大切にしてくれる

そう願い、思っている

ごく普通の願いかもしれない

でも、もしもこの声の主が”兄さん”のことを呼んでいた人なら

私は今まで感じたことの無い喜びをもう無くなった心の奥のそこから感じるだろう

ふわふわとした意識の中私はもう一度沈んでいった

人間が眠りにつく時と同じ感覚がする

おやすみなさい

夢なのかわからないこの現状に別れを告げ眠るようにそっと目を閉じた

本当の世界は見えてはいない

だけど、どことなくあなたの顔はわかる気がする

思い出せる日が待ち遠しく感じる

長くこの感情は忘れ去られることを後悔しながら見えないあなたに

また会いましょう

と、だけ伝えて私は消えていく

何かあっても私はあなたのことを思い出せるように

あなたとこれから紡ぐであろう思い出の記憶を保管する場所を残しておこう

忘れてしまったらそれはきっと未来の弱い私が悲しんでしまうと思うから

これは憶測でしかない

だって、未来なんて私もあなたも誰もわからないのだから

何度でもあなたに会えることを願っている

それが叶う日まで

ずっとずっと待ち続けて