S.tiger【病系短編集】13

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元太、と知らない男の人の声で名前を呼ばれた気がして、そっと目を開ける。いつの間にかベッドに突っ伏して寝ていたみたいで、なんとなく腕がしびれていた。



元「兄ちゃん、俺寝ちゃってたみた………え！？」


暗い部屋の中で、兄ちゃんの目が光っている。びっくりしすぎて声が出ない。



元「え、えっと、…あ、え、起きてたんだ。」


なんとか絞り出した声に、兄ちゃんが笑いながら頷く。それを見た瞬間、どうして俺が起きてる兄ちゃんを見ただけであんなに驚いたのか、やっとわかった。




目が、違うんだ。いつもはどこか遠くをぼんやり見ている感じなのに、今は怖いくらいしっかりと目が合う。それに、俺の言ったことに笑いながら頷くなんて、冷静に考えれば初めてかもしれない。



元「…ねえ、さっき俺の名前呼んだのって、兄ちゃん？」


そんなわけないと思いながら聞いたのに、兄ちゃんはまた笑って頷いた。優しく細められた目に、胸がきゅっとなる。



兄ちゃんの笑顔は、すごく優しい。俺が仕事でミスったときに「いいよ、いいよ」って笑ってくれる先輩みたいな、ほっとする顔。そういえば、俺の指導係の先輩もたしか28歳だ。




元「兄ちゃん、もっかい俺の名前呼んで？」


今度は、困ったように笑いながら首を振る。でも、俺は諦められなかった。バカみたいにしゃべりまくって、なんとか兄ちゃんの言葉を引き出そうと必死になった。




―兄ちゃん、俺仕事大変だよ。やっぱり向ていないのかな？


―俺、いまだにパパママ呼びなの。恥ずかしいと思う？




どう話を振っても、兄ちゃんは首を振ったりするだけで声を出さなかった。







そのうち、ものすごい眠気が襲ってきてまぶたが重くなる。この時間の終わりが来たんだと、俺は直感で分かってしまった。



元「…ヤダ、兄ちゃん。俺、兄ちゃんとおしゃべりがしたいよ。俺、兄ちゃんともっとたくさんっ……」


体まで重くなって、自動的にベッドに突っ伏すような体勢になる。目を閉じる寸前、温かい手が俺の頭に触れた。







―元太、ありがとう

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