【文スト】女だなんて聞いてない。

#42 ページ42

『っ、太宰か＿＿＿』



｢黙って｣







柔らかく華奢な身体を腕の中へ寄せる。

ふんわりと香る柔軟剤が鼻を擽った。




前に肩を寄せた感覚と一緒なのに。

何処か、私の心は違う。








ぎゅう、と私の服を握って息を潜める彼女。



後頭部を優しく自らの胸元へ抑えて訊いた。







｢…私の心臓。

よく聞こえるでしょ｣







『……寝起きとは思えないほど、早いですね』




｢君の心臓はどうなの｣






『…ばっくばくですよ』






帽子を取っても彼女は抵抗しなかった。


仄かに紅くなる耳が見える。








……好き、って表せない蠢く心。

君になんて伝えればいいのだろうか。









｢私にこうされて……厭？｣





『厭じゃ……無いです』











『貴方ですから』小さな言葉が聞こえた。






あああああああああ何もう。









｢…ほんとに？｣




『嘘は云いません』







柔らかな髪に触れて、

再びAを引き寄せる。











｢……従順な補佐だね｣











帽子を返す前に、






触れるだけの、

気づかれないような接吻を髪へ落とした。














＿＿＿＿＿まだ、だ。




太宰治。


堪えるんだ。

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