水晶体でねむれ ページ1
理鶯の細く骨張った指がAの前髪を掬い取り、まるで品定めでもするかの様にゆっくりとその絹糸を撫でる。
彼に伝えた事は無かったが、Aは殆どこの瞬間の為だけに毎日の煩わしいヘアケアをしていると言っても過言ではなかった。彼が自分の頬に片手を添えて空いたもう片方の手で額に触れる時、その指の隙間から劣等感の塊であったくすんだブラウンの髪が零れ落ちる時、自分の睫毛に彼の吐息が触れる時。彼女は身震いする様な愉悦に襲われる。決して俗っぽさにまみれたわけではない、それ所か寧ろ一種の神秘性すらも感じさせる行為。その行為が孕む穏やかさと確かな熱は徐々に身体を浸潤していき、やがては脳味噌さえも支配してしまう。そしてまた彼女は漠とした愛おしさを頭の片隅に感じながら、煌びやかに飾り立てられたドレッサーの前で髪を梳かすのだ。軍に居た頃は短く切り揃えて自己を律する道具として使っていた、そのブラウンの髪を。
理鶯は癖が付かないよう気を付けながらAの前髪をかき上げ、閉ざされた彼女の瞼に口付けを落とした。触れるだけの、優しく脆いキス。Aは時価数億の陶器にでも触れるかの様な彼の様子に微笑みを浮かべ、その瞼を押し上げて世界を見た。否、見えたのは世界ではない。極めて幸せそうに笑う理鶯の姿だ。Aは彼が口付けを終えて自分が目を開けた後、こうして微笑んでくれる瞬間が大好きだった。
「また瞼なんだね」
Aが独白の様にぽつりと呟く。「駄目だったか？」と少し不安そうに尋ねてくる理鶯に対しゆるりと首を横に振り、彼女は膨大な量の情報を蓄積している海馬の中を探った。瞼へのキスは____そう、確か「憧憬」だったか。向けられて嬉しい感情である事に違いはないのだが、こんな些細な事にすらやはり自分は彼にとってまだまだ“尊敬する上官”としてのイメージが強いのだろうかと思ってしまう。敬語も敬称も無しで話せるようにはなったものの、身に染み付いた軍人としての色は落とせない。彼が意味を理解した上でやっているのかどうかは分からないが。
自分をふわりと抱き締めて完全に眠りにつく体勢になった理鶯の袖を引き、その透明なスカイブルーの瞳をこちらへ向けさせる。まあ、たまには自分から行くのも悪くないだろう。
「でも、ちゃんと唇にもして欲しいかな」
「駄目？」と先程の彼の真似をして首を傾げる。途端に引き寄せられて重なった唇は、たちまち微睡みの中に溶けていった。
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十弧(プロフ) - 通りすがりの理鶯推しさん» まずは身に余る程のお言葉を頂けた事、心より感謝致します。私の年齢上ここでの活動が丁度良いというのと名前変換機能が便利という事で今まで執筆して参りましたが、仰る通り他サイトでの活動も検討してみたいと思います。貴重なご意見有難う御座います。 (2019年4月1日 23時) (
レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
通りすがりの理鶯推し - 作品を読んでみて、貴方の文章はもっと多くのヒプマイファンに読んでもらいたい程上手いと思いました。小・中学生が多く利用している占いツクールで才能を伸ばすのも良いですが、Pixivなど作者のレベルが比較的高い場所で活動をしてみてはいかがでしょうか？ (2019年4月1日 23時) (レス) id: 187c3cfb3f (このIDを非表示/違反報告)
十弧(プロフ) - 月崎伊吹さん» コメント並びに身に余るお言葉、有難う御座います！ぱっと思いつくままに書き綴っていたのですが、しっかりと楽しんで頂けたようで嬉しい限りです。更新は不定期になりますがこれからもご期待に添えるよう精進して参ります故、何卒宜しくお願い致します。 (2019年3月4日 23時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
月崎伊吹(プロフ) - 作者さんの語彙力の凄さと、表現の美しさに引き込まれました! これからも更新頑張ってください。応援してます。 (2019年3月4日 23時) (レス) id: 275071a833 (このIDを非表示/違反報告)
十弧(プロフ) - 市さん» 申し訳御座いませんお詫びにうちのグロリアが脱ぎますまあ嘘ですけど()新作と言っても続くか分からないネタ庫のようなものなのでゆるーく読んでもらって大丈夫です。 (2019年3月2日 10時) (レス) id: f05eea04c6 (このIDを非表示/違反報告)
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