その5 ページ6
「………解った」
『よし』
頷いた鳥井にフッと短く笑い掛け、緩やかに止まった車から降りる。のそのそとドアを開けて出てきた鳥井は、目の前に聳え立つ家を見てあんぐりとしていた。
「…でかぁ……お前、どっかのお姫様とかなん？」
まあ、知らなければ驚くだろうよ。古き良き日本建築みたいな家だからな。私は一つ伸びをして、自分を一気に普段の家での調子へと戻した。
『んな訳無いだろ、良いから着いて来いよ。一度この車に乗った以上は、お前を野放しにしたら危ねぇんだから』
鳥井は驚いた様に息を呑み、黙って私の後ろにつく。「持ちますよ」と手を出したエーミールに鞄を預け、玄関先で待っていた“お兄ちゃん”達に近寄る。
「お嬢、お帰り」
『ん。ずっと外で待ってるの暑くないか？トン兄なんてマフラーまでしてんのに』
「あー、まあ暑いには暑いで」
『だろうな』
会話をしながら家の扉を開けてもらい、スタスタと父の居る部屋の襖の前まで来た。
「所でお嬢、その縮こまってる奴は？」
『担任の責任放棄のせいで、気付いたら居た』
「そうでしたか。それで、どうするんで？」
『考え中』
それだけ答え、私は襖を思い切り開け放つ。行儀の悪い事をすると父に怒られるので、足では無く手で開けた。
『親父ぃ、ただいま』
「Aか、吃驚させんな」
『あぁごめん、墨を磨ってるとは思わなかったわ』
言いながら、父の目は鳥井に釘付けである。それもその筈、何故なら私はこれまでの人生において一度も他人を家に招いた事など無いからだ。ましてやその第一号が男となれば、父の驚きも並大抵では済まないだろう。
「……A？」
『文句はらだ兄へどうぞとしか言えねーんだけど』
「……あいつ…クッソそういう事かよ…」
どうやら父には心当たりがあったらしい。私からすれば鳥井は勝手に迷い込んで来た野良猫ちゃんなのだが、恐らくは猿山先生…基らっだあのアニキが何かしら父に頼んだのだろう。旧知の仲という関係性を都合良く使い過ぎである。まあ、余程この鳥井に思い入れが在るのかは知らないが。
「鳥井希君だな？」
「うへ！？は、はい…」
鳥井は名前を呼ばれると、ビクッとして私に隠れる様に体を丸める。人見知りというのは本当の様だ。
「……あー、まあ自分の家に帰りたく無いのなら、我が家に居候してくれても構わない」
「へ…」
『は？』
思わずとんでもなく低い声を出してしまったではないか。あの、親父。悪いけど、それは流石に聞いてないんだが？
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 824人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ミックスベリー - 完結おめでとうございます！最高でしたぁぁぁ！！ (2021年9月25日 19時) (
レス) @page49 id: ff705752ad (このIDを非表示/違反報告)
千寿(プロフ) - 完結おめでとうございます〜！！前作も毎日更新を待ってるくらい好きだったんですが、今作もめちゃくちゃに幸せで最高でした！！！！幸せになれ〜という気持ちでいっぱいです！！！ありがとうございます！！ (2021年9月25日 13時) (レス) @page49 id: d8421960c5 (このIDを非表示/違反報告)
ミックスベリー - 神作品をありがとうございます。いつも拝見されていただき、ニヤついております。 応援しております！ (2021年9月15日 21時) (レス) id: ff705752ad (このIDを非表示/違反報告)
オタクのオクタ - あっ結婚してください (2021年9月2日 5時) (レス) id: 748c39705b (このIDを非表示/違反報告)
はぁな。 - うわぁぁぁぁぁぁぁ何これ無理！神作品すぎません！？…すみませんお騒がせしました。無理しない程度に更新頑張って下さい！ (2021年8月22日 8時) (レス) id: cdc92f829b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆうり
| 作成日時：2021年8月20日 20時
